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2006年6月24日 (土曜日)

第6回

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『クローン体の報告』
 とタイトルが書かれたA4用紙の小冊をペラペラとめくりながら本条は校舎の裏庭に寝そべっていた。
 朝奈の持ってきたフロッピーには一見読んだだけでは理解し得ない文章がA4の用紙に約30枚近く印刷された。
 文章は教科書の様に誰にでも解るようには書かれていなく、このまま論文として発表するかのように難解に表現されてあった。
IQ120位あるような天才ならともかく本条は一般高校生だ、読んでいても全く意味が解らない。
 仰向けの身体をゴロンと回転させるとはぁっとため息をついて続きの文章を読み始めた。

 本条春人は最近安藤朝奈と知り合った。
1年の時のクラスメートだった太田衣子の友人が相談があると言われて紹介された。
本条は化学部に所属していたが、その活動には参加はせず独自で研究をしている事が多かった。
 周りからは変わった人の扱いを受けていた。 衣子とは、元クラスメートとは言っても、2,3言話しただけである。
だが、衣子にとっては、クラスメート=友達なのか、久しぶりに話したというのに語尾を延ばす様なしゃべり方で、なれなれしく話しかけてきた。本心は少し苛ついていた。
 紹介された朝奈は暗く、自分自身が今どんな顔をしているのか気づいてないのだろう、目の下にくっきりとクマを作って疲れ切った様子だった
 本条はこの相談を受けることにはじめ乗り気では無かった。自分の研究・・・と言っても、今は得にテーマは決まってないる訳では無かったが、今までやっていた菌についての研究に飽きていたので、新しいものに移りたいと思っていたのだ。
 
 二人きりで、部室にいるときも、口べたと言うこともあるが、何をしていいのか解らなかった。
向かい合って冷めたコーヒーを飲んでいると、しばらくして朝奈は席を立った。
 本条は先程から変わることのないパソコンの画面をジッと睨み付けた。
「キーワードねぇ・・・中身がなにか分からないんだから、みつかりっこないよなーーー。」
と、愚痴をこぼした。

 ガラっと後ろで扉が開いた。音に反応して振り返ると今出ていったばかりの朝奈が戻ってきていた。
「・・・・?」
だが、なんとなくさっきと雰囲気が違うように感じる。顔も格好も同じなのに微妙に何かが違う。
「本条くん・・思いついたのキーワード・・」
表情の無い顔で唇だけが薄く開いた。
なぜか、ゾッとした。
「で・・・、今度は?」
さっきから何度も繰り返し入力してはエラーを出していたので、少し苛ついたように聞き返した。
 すると彼女は静かに近づくと白い人差し指で、パソコンのキーボードをゆっくりと押し始めた。

『contraindication』

入力が終わりenterを押す。無理だとは思いながらも、ハードが動いてる音を聞きながら画面を見ている。
すると一瞬ディスプレイが暗くなると、パスワードが解けたのだった。
「おい・・開いたぞ・・・・」
驚きながら、瞬間動きが止まってしまったようだった。そしてハッとして隣を振り返るとそこにいたはずの彼女は居なくなっていた。
 本条はその事は特に不思議に思わず、画面に映し出された内容にとりつかれていた。


 校庭の裏庭の芝生の上に横になって印刷された文章を読んでいる。あと数枚で、最後まで読み尽くすところだ、細かい文字で、印刷された文章は見ているだけで気が遠くなってくる。
 もしこれが教科書だったなら、必要部分以外は読むことは無いだろう、だがこれは別の話。
読み終わった所で、理解など出来ない物の束をボソッと芝の上に放ると、仰向けになって空を見上げた。
「クローン・・・・」
あの時、本条の目の前に現れた女性は雰囲気さえ違えども、何処をどう見ても同一人物に見えた。
 たとえ全ての遺伝子が同じ一卵性の双子であったとしても、距離が離れた状態で育てば生活課程で、微妙に変わってくるものだ、だが、双子ではない人物が同じ顔、同じ声、同じ表情、を持てるのだろうか・・・。
 本条は静 かに雲が右から左へ移動するのを目で追っていた。そうして、何を考えれば道は繋がるのか、どう動けば答えがでるのか分からず一つ深くため息を付いた。



 放課後、化学準備室で待ち合わせをしていた朝奈は、本条が来るのを待っていた。
約束の時間を15分過ぎたが、本条が来る様子が無く不安な気持ちが溢れていた。
「もしかして、もう来ない・・・」
言葉にしてしまうと本当になるようで全ては言えない、ただこうなって欲しくないので、不安を押し切る様に、父親が残した研究を読み始めた。
 何度読んでも理解することは難しい、だた考えられるのは、『真夜』はもしかしたら、自分のクローンではないかと言うことだった。だいぶ前にニュースなどで羊が成功したとか、大豆や野菜に使われていて問題があるなどのレベルの話までは分かる、だか、この仮定が正しい物だとすると、今までのレベルより大幅に上廻ったことになる。もしそうなら、父はなぜ世間に公表しなかったのだろうか・・・。
「悪い、遅れた・・・」
ガラッと扉を開けて本条が入ってきた。
  朝奈はホッとして肩を降ろすと、少し不機嫌に見える本条を迎えた。




 ホームルームが終わり、教室から個々に同じ制服を着た生徒が教室から逃げ去っていった。何人か残った教室はあっという間にシンっとした空気を作っていた。
「いきたくね~な」
 教室の一番後ろで椅子に体重を全てかけて、延びをするような格好で、本条は呟いた。
昼間訳が分からない物を読んで頭がこんがらがっている今、安藤顔を見たくなかった。だがなぜか本心とは別の所で、ざわついた気持ちが生まれている。それは好奇心と言う名なのかもしれない。それは知らないものは分かるまで調べ尽くさないと落ち着かない研究者の資質なのか・・・・。
 これをきっと謎説いていったらさぞかし面白いだろう。本条の意志は本心よりも、好奇心の方に持って行かれたのであった。

 準備室のドアを開けると、安藤がなにかブツブツ言っていた。それから、自分が来た事を知ると、不器用に微笑んだ。その表情はきっと昔はすることは無かったのだろう、顔の作り決して悪い訳ではないので、少し前までは、友人達と楽しそうに笑ったりしていたのだろう、ただ、今彼女の表情は顔の上に一枚曇ったセロファンを貼ったかの様に曇った表情しか見せない、それは、彼女の心を閉じこめるまでの辛い出来事があったのかと思わせられた。
 向かい合って座ると、少しの間沈黙が続いた。その空気を壊す様に朝奈は、さっき考えた疑問を本条に問いかけてみた。

「人間のね、クローンは良くないされているんだよ。人権的な問題が起こるからね。」
意志の現れない植物や、家畜の動物は研究材料として行われている。
 だが、人間に関しては、そのクローンとして誕生した物をどう扱うのことが正しいと言う定理が不完全であるため、公には発表できないのであった。
 噂では、海外では、人間の卵子を使ったクローン研究が密かに行われ成功しているらしい。だが、それはあくまで噂の上の話だった。
 もし、発表したとしたら、その研究者は栄光と共に、非難を浴びるだろう。朝奈の父親もその点に関しては、人並みの感情をもっていたのかもしれない。
「じゃあ、あの人は悲しい人なんだ・・・」
小さな声で、そう言ったのを聞き逃さなかった。
 確かに客観的にみれば、もし、真夜という人物が朝奈のクローンであったとして、制作者の父親にひた隠しにされ、世間から存在得ないモノとして扱われたのなら、『悲しい人』と素直に言えるであろう。
 だが、朝奈は彼女に直接からんで、今も被害を受けている身だ。それなのにその言葉を素直に吐いた。
 本条は自分では一生理解出来ない考えだ。っと思ったが、口にはしなかった。
 
 
 二人が準備室にきたところで、どう話が進むわけでも無かった。暗中模索の状態なのだ、どこから手を出して良いかわからない。だが、少しずつでも進めなければいけない。二人はまず、『真夜』が現れたと思う時間と行動をまとめることから始めた。

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