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2006年6月28日 (水曜日)

第9回(3)

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               9-3

雨が上がったあとの少し水くさい空気が嫌に鼻についている。周りに茂っている木々は光を水滴で反射させて、輝いているようにみえた。
少し進ときっと昔は真っ白だったと思われる大き壁が見えてきた。朝奈はゆっくりと近づいて、入り口の前にたった。
 すこし躊躇う様に二三度彷徨いた。その様子に気付いた受付の看護婦が、中に入るように促した。
「あの・・・・・・。」
顔を伏せて蚊の鳴くような声で話しかける。
「どうしたの?」
決して若くない看護婦は慣れたように優しく聞いた。
「どこか痛いの?」
「あの・・・・八巻先生に・・・。」
「八巻医院長?にご用ね?ちょっと待ってて。」
顔を伏せたままの朝奈の対応にすこし困りながらも、看護婦は奥の部屋へと消えていった。
 朝奈は近くにあった長椅子に座ると、ホッとしたかのように、 肩の力を抜いた。

 しばらくして、さっきの看護婦が戻ってきて八巻の元に案内をした。診察室と書かれた部屋のドアを開けると、余計に消毒液の臭いがした。目の前には白いカーテンが引かれていた。その奥に人影が映っている。
「どうぞ。」
朝奈はカーテンの切れ目から部屋の中に入っていった。
 大きな窓の前に60才くらいだろうか、白衣を着た老人が座っている。その顔は皺を深く刻んでいる。
 老人・・八巻はあまり変わることのない顔で微笑むと朝奈を自分の前の椅子に座らせた。
「今日はどうしたんだい?」
朝奈はとまどうように八巻の顔を見たあと、黙り込んでしまった。その様子に少し困りながらも八巻は話を繋げた。
「・・・君は此処で産まれたんだよね。君の事は覚えてるよ。お母さんは安藤夏美さんだよね。お母さんは元気かな?」
「はい。・・・あのどうして・・・」
自分の名前も言っていないのに、自分の事を覚えていた事に感し驚いていた。
「小学校の時に一度遊びにきただろう、変わってないね。でも、顔色は悪いかな。なにかあったのかい?」
気を紛らわす様に微笑みながら話しかけてきてくれる八巻に安心して朝奈も、顔を上げた。
「君は僕が取り上げたんだよ。覚えてるかな?まあ、覚えてたら怖いか、ハハハハハ」
「はい」
冗談に笑える様になって気が大分落ち着いた朝奈は八巻に聞きたかった事を質問した。
「あの・・・」
「なんだい?」


 少し開いた窓から風が吹き込んで、入り口のカーテンを揺らしている。窓枠に当たる風の音だけが部屋の中に響いていた。
 しばらく沈黙が続いた後、先に口を開いたのは八巻の方だった。
「そう、お父さん亡くなったんだ・・・。」
「はいそれで、私と一緒に産まれて、死んでしまったという、姉の話を聞きたくて、そのころの事を知ってるのは先生しかいないんです。母には聞けないし・・・。」
目の下にくっきりクマをつくり、やつれた様子の朝奈から聞いた『真夜』の話は信じがたいものがあったが、彼女が冗談を言ってい様には見えなかった。

 八巻は深くため息を一つ吐くと、朝奈 が産まれた時の話を始めた。もともとは双子だったこと、しかし片方は成長の途中で消えてしまった事、そしてその子の指らしきものが朝奈と一緒に産まれてきたと言うこと、その指をもって、朝奈の父親が失踪してしまったという事。
 八巻は自分の知っていることを一つ一つ話していく、朝奈の方も一言一句逃さないように聞きかじるが、およそ重要なヒントとなるような答えは返って来なかった。
 看護婦の持ってきたオレンジジュースのコップは表面に水滴を作って汗をかいている。氷がカランと崩れる音を立てて動きをかえるた。
 八巻はそのジュースを勢い良く飲み干すといくらか小さくなった氷を奥の歯でボリボリと音を立てて食べると、ふと思い出した様に朝奈を見つめた。
「んじゃ、子供ン時お父さんと挨拶に来たのは君じゃなかったんだな・・・。」
「え?・・・・・。」
「さっき言ったろ。小学くらいン時遊びに来たって、お父さんの方と一緒に来たんだよ。でも、あれは君じゃなかったんだな~。」
頭をボリボリ掻くと少ない髪の毛がくちゃくちゃになった。
「父は此処に来たんですか?」
「ああ、あのときの子がこんなに大きくなりましたって・・・。」
「真夜・・・・・。」
朝奈はジッと見ていた八巻の顔から視線を外すと風が入り込んでくる窓の隙間からのぞく景色を見た。
 窓の外では濡れた緑の葉と茶色い葉が風に揺れていた。

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2006年6月27日 (火曜日)

第9回(2)

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             9-2


「99.9%ね・・・・」
(ほとんど、同一人物か・・・)
麻十城は椅子にもたれ掛かりながら電話をしている。
その電話は学校のものなのだから、私用電話は禁じられているが、ここは職員室ではなく、保健室という自分の特別な空間なので、人の目を気にしないで堂々たる態度で話をしていた。
「入手先・・・?」
 受話器の向こうの相手、大学時代の同輩の真田恭子は自分の渡した粘液の入手先が気になっているらしい、麻十城はどうしたものかと一瞬ためらったが、話すことはやめた。
「まあ、おいおい説明するよ。そのうち協力してもらわなくちゃいけなくなると思うしな・・・」
恭子のふてくされた返事を聞きながら、苦笑した。
 大学の同輩が、この地区担当の監察医になったと言うことは、卒業した時点でしってはいたが、まさか自分から連絡をとるとは思っていなかった。
恭子の顔は、好みだったが、性格が男勝りだったので、どうも、馬が合わなかった。まあ、会話もそれほど交わしたことは無かったので、自分にとって対して重要な存在の人物ではなかった。
 その女性とこうして自分からアポイントをとり再会するなどとは、あのときは考えもつかなかっただろう。
「また、連絡するよ。」
といって受話器を置いた。

 パソコンの前にすわると、スクリーンセーバーに変わっていた画面を直すためマウスを動かした。
「同一人物ね・・・・」
麻十城は明るくなる画面をみながらボソリと呟いた。
 画面は例のフロッピーの中身が映されている。手慣れた様子で画面をスクロールさせると、ある画面で動きを止めた。
 目の前の画面には受精後10週目と思われる胎児のエコーが添付してある。その写真を拡大した。と、麻十城はあるものに気づいた。
「イニシャル・・・?」
写真(エコー)の隅に小さく、日付とともにサインらしき文字が書かれてあった。
「H.A・・・ねぇ・・・・。」
麻十城は画面を見つめながら呟くと少しの間じっと動かなかった。

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2006年6月26日 (月曜日)

第9回(1)

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        9-1

 冷たい空気が白い霧となって開いた扉から洩れている。
その後い続いて、真田恭子が出てきた。恭子は薄い手袋を引っ張るようにはずすと、保留音のなった電話の受話器を取った。
電話の相手は大学時代の同級生の麻十城からだった。同じ大学ではあったが、学部が違うためほとんど会話することはなかった。たまたま同じ友人を通しての知り合い程度だったので、大学卒業後はきっと会うことは無いだろうと思っていた。
その人物から、連絡があったのは不可解な仕事に填っている時だった。

 恭子は卒業後、監察医という仕事に就いた。人の不可解な死の謎を少しでも解けたら・・・と思っていた。本心を言えば、ドラマとかに憧れていた面もあったようだが・・。
 就任して3ヶ月、お話の様な事件に巡り会うこともなく、事故遺体や自殺の遺体を解剖することに慣れていった。
だが、ある日担当の管轄から、回された遺体は『謎だらけ』のものであった。

 遺体の名前は安藤修二、遺体で発見されるまで行方不明になっていたらしい。当初安藤の死因は心筋梗塞によるものだと判断され遺族の元へと返されたのだった。
だが、恭子が書類の整理をしている時に不可解なモノを発見したのだった。
 それは腹部に小さな指が埋まっている影を映したレントゲンだった。見つけた当初はなにか内臓が絡んでしまったものだともおもったのだが、それはどう見ても人間の指にしか見えなかった。
だが、そんなものがそんな場所に入ることは、人為的な事をしない限りあり得ない。それなのに安藤の遺体には埋め込んだ痕の様なモノもなかった。恭子はその不可解な謎を解く為に上司を説得し、返された遺体を再度引き揚げる事にした。
 そうして、安藤の不可解な謎は恭子の仕事となった。だが、何度解剖を続けた所で真新しい発見をすることはなかった。

 遺体を目の前にして途方に暮れ始めていたとき、恭子の元に麻十城からの連絡が入った。
恭子は受話器を左手に持つと、近くにあった椅子に座った。
「もしもし、真田です。」
そう話しかけながら右手では白衣のポケットに入っている小さな瓶を取り出した。
「あ~、はい『指』ね・・・・。」
瓶を机の上に置くと人差し指で斜めにしてみた。
瓶の中にはホルマリンに浸かった指が浮いていた。
それはもちろん安藤の中から採取されたものであった。
「指のね~DNA調べたわよ。」
恭子はもともとおしとやかとは言えないタイプの人間だったので昔の同級生の、麻十城と話すときも上司と話すときもどこかつっけんどんな言い方に聞こえる。
「うん、そう。で、あんたから預かった方のも調べてみた。」
瓶をつかんでトンっと音を立てながら置き直すと、少し間をおいて声を潜めた。
「あんた、あれどこで手に入れたの?・・・うん、そう」
辺りを見渡して人がいないのを確認した。
「親、兄弟である確率99.9%・・・一体あんたは何を知って るの?」
 今直面している問題のヒントを麻十城が握っている。安藤の体の中から摘出されたモノを酷似したDNAをもつ人間がいる。
 恭子は身震いをした。それは恐怖などではなくどちらかといえば歓喜に近かった。

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2006年6月25日 (日曜日)

第8回(2)

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               8-2

 夕食を食べながら交わす会話は、たわいの無い内容だった。
母親の方も最近学校に行くようになった朝奈に安心していたのかもしれない。
本当の事はしらないで・・・。
 朝奈は本条と知り合ってから、学校に行くようになっていた。だが、朝いつもの様に制服をきて家を出るが直接学校に向かうことはなかった。
日中人混みの中をうろうろして、放課後の時間に なると下校している生徒に紛れて学校へ向かった。
「1人で居るのは怖いの・・・でも、クラスのみんなに会うのはもっと怖い・・・。」
前に朝奈の友人である、衣子にどうしているのか聞かれ質問した時そう答えていた。
「お母さん・・・」
 ご飯の半分へったお茶碗を机の上に置きながら、ぼそりと呟く。
箸は皿の上のおかずを小さく切っていた。がそれを口に運ぶ様子は無く小さく、小さくなっていく。
「朝奈、食べないならいたずらしないの!一体どうしたの?」
 様子のおかしい娘に気づき言葉は戒めの内容だったが、優しい表情だった。
朝奈の方は手を止めはしたが、俯いたままだった。
 なぜならこの今の雰囲気を壊しかねない質問をしようとしているからだ。

『代理母の存在』

 そのことを調べるにはまず、母親に聞かなくては進まない。しかし、それにはそうとうなリスクが考えられる。
朝奈は偽りでも、今の生活を壊すのが怖かった。
母親が前に見た時の様にノイローゼになってしまったらどうしよう・・・。などと、悪い事ばかり想像してしまう。
 考えれば考えるほど悪い想像ばかり浮かんでくる。机の上に置いた手をギュッと握ると、伏せていた顔を上げた。
「お母さん」
静かな空気が一瞬広がった。



「ごめんなさい。」
受話器を肩に挟むと開いた手をダラリと下ろすと、ジュータンに 落ちていた髪の毛に気付き拾い上げた。
「だって・・・・」
受話器の相手に文句をいわれたのか言い訳の様に言葉を吐いた。
 結局のところ、母親を問いただすことは出来なかった。覚悟決めたつもりだったが、目の前に座っている母親の心配そうな笑顔を砕くことが出来なかった。
なんでもないと笑ってごまかしたのであった。
「・・・親戚の人あたってみるから・・・・」
そう、相手に伝え何度かうなずいたあと、朝奈は静かに電話を置いた。
受話器に手を置いたまま動かずに一点を見ていた。だがその視線の先にはなにもなかった。
 そうして少し経った後、もう寝てしまった母を起こさない様に静かに部屋に戻った。



 本条は受話器を置いてすぐに鞄から手帳をだした。数枚めくると、書いてもらったばかりの麻十城の連絡先が書かれてある。
その電話番号を確認するかの様に指でたどるとダイアルを押した。

trrrrrr・・・・と、呼び出し音が聞こえている。
「親戚ねぇ・・・」
と独り言を呟いた。
 先程、少し涙声で電話をかけてきた朝奈は今日麻十城から聞いた『代理母』に思い当たる人物を朝奈の母親に尋ねて欲しいという申し出に答えられなかったという誤りの電話だった。
 彼女の気持ちも解る。だが、そんな躊躇しては何にも解決出来ないのではないかと言う少し苛立った口調で彼女に問いつめてしまった。
「もとは、彼女自身のことなんだし・・・」
呟くと同時に呼び出し音が途絶え、受話器の向こうから、声がした。


 朝奈は父親の葬式の回向帳を開いていた。
参列してくれた人に何か手がかりを持っている人がいるかもしれないと考えたのだ。
それには本来なら、かなりな参列者の名前が書かれるものだが、失踪していた事もあって、数十名の人数しか書かれていなかった。
 父親の昔の上司と、数年来の友人、母親の方の知り合いあとは 親戚くらいだった。
そうして、しばらくして帳面を閉じると、鞄に閉まった。
その後布団に潜った。ベットの上で横になりながら天井を見ていると何も無いはずの天井なのに何故か気になって眠れなかった。
その感覚は恐怖というものではなく、静寂の真ん中に落とされた様な不思議な感覚だった。朝奈はその感覚から逃れる為に、力一 杯目を閉じて強制的に眠りの世界は入っていった。

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第8回(1)

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                  8-1


 薄暗い部屋の扉を開けると、廊下の光が部屋の中へと細く入り込んだ。
自分の体を荷物の様にベットの上へ倒した。
まだ、母親は帰ってきていなかった。朝奈は手を伸ばすと枕を引き寄せた。
「・・・・・」
ギュと顔を押しつける。苦しくなって、顔だけを横に動かした。その表情は、どこか遠くを見ている様だった。
「母親・・・・」
朝奈は少し前に聞いた、麻十城の言葉を思い出していた。


「でもセンセ、子宮を同じ構造の羊水と条件を満たせば人間の体を使わなくても平気なんじゃないか?」
大学でクローンについて研究をしていたと言う麻十城が加わって話は進み始めていた。もちろん朝奈は聞いていても理解は出来なかった。
だが、自分ではどうしていいのか解らない。
そして麻十城は『真夜』にも会っているという。唯一の理解者と思っていた本条が麻十城にも話したいと言ったので訳が分からないまま承諾した。
確かにその行為自体は間違ってはいなかった。今まで足踏みをしていた状態から、一歩を歩み始めたのだ。
だが、理解しえない分野の話に付いていけない朝奈はこのままどうなっていってしまうのか不安だった。
 麻十城の話に付いていっている本条が質問を投げかけた。
「確かに考えられることも出来る。だたしそれにはまだ不足してるんだよ、知識が・・・それに『真夜』を作った安藤修二は急いでいた。確かな理由は解らないが、早く『真夜』を完成させたかったらしい、だから可能性の確かなこの方法しか考えられない。」
麻十城の手に持っているボールペンは白い紙の上の「代理母」という文字を何度もなぞっている。
「急いでいた・・・ってのは?」
「双子が欲しかったんだろう・・・?」
目線は本条の方なのに、手は朝奈の方を指した。自分を指摘されて朝奈は体を震わしたが、2人の視界の中には入っていなかった。
「じゃあ・・・・」
「そう、まず最初の手がかりとしては、その母親を捜すことだ。」
朝奈をよそに、2人は話を進めている、その様子はとても楽しそうに見えた。



 玄関が開く音がして、朝奈は体を起こした。
母親はあれから大分たった事もあって、対外的には大分落ち着いて見えた。
 仕事もどうにか復帰し、時々笑顔を見ることもできた。ただ朝奈には分かっていた。本当はまだ、大きな歪みを残していることを。
その為なるべく父に関する事には触れず、内容のない話をして過ごしていた。
 本条は母親になにか手がかりが無いか聞いて欲しいと言ってきていた。だが、朝奈に出来なかった。
 いま、この状態を崩してしまったら、きっと母親はおかしくなっ てしまうだろう、それだけは避けなければいけない。
自分一人で抱え込んでいる事にため息を付きながら、笑顔を作って階段を下りた。
「ただいま。朝奈」
階段を下りてくる娘に気付いた母親は微笑んで、話しかける。
それに答えるように朝奈も微笑んで母親を迎えた。

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第7回(3)

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                 7-3

唖然とするしか出来なかった。
「っ・・・って事はだ。」
本条から話をきいた、麻十城は許容範囲を大幅に超えた内容にどう対処していいのか解らなかった。
当の安藤は顔を伏せているだけだった。
「昼間、保健室に来たのは、その『真夜』って事か?」
「まあ、自然に考えればな、こっちは保健室には行ってないって言ってるんだから・・・」
確かに言われてみれば、雰囲気はかすかに違うかもしれない・・具合が悪そうにうなだれていたので、今よりもう少しだが、色気見たいのがあった様な気もする。だが、それは言われてみればの話だ。普通ならそんなことは解らないだろう。
 それが、目の前にいる安藤の他にもう1人同じ人間がいて、なおかつその人間(?)は父親である人物によって作られたクローン体の可能性が有るらしい・・・。
「で、さっそくだが、麻十城センセ、このFDに書いてあった事なんだけど・・・。」先生と言う敬称は付いているものの、麻十城に話す、本条のしゃべり方は尊敬の意志は見えず、自分と同じ立場の人物の用に思える。
 麻十城も、そういう良識を持ち合わせていないのか、なんら変わる様子も無かった。近くで2人のやりとりを聞いている朝奈だけが目を白黒させていた。
「クローンの作成方法は何種類かあるんだ。大きく分けると3つの部類に分けられる」

 麻十城はなるべくわかりやすいようにクローン技術についての説明を始めた。

クローンの作成方法は大きく3種類にわけられる。

・胚分割によるクローニング
これは、1つの受精卵を4つに分裂するまで培養し、分裂したものをバラバラにして、子宮のなかに戻す。
「一卵性双生子」という状態になる。(ただし、この場合4つ以上に分裂させると正常に成長しないので、最大4つまでのクローニングとなる。)

・受精卵核移植
核分裂期になった受精卵を酸素をつかって分裂している核の1つ1つに切り離す。
(この時切り離された1つ1つの核を胚割核という。)他の未受精卵からピペット(スポイト)を使って核だけを取り除き、先程切り離した胚割核を埋め込む。
だがこのままではまだ、融合していないので電気ショックを与えてから、代理母となる子宮に戻すというクローニング方法

 今まで知っていたものはいかにいい加減で曖昧なものだったのかと言うことを本条は思っていた。
曲がりなりにも、自分は化学に関しては秀でたものを持っていると思っていた。
だが、専門的にはまだまだ足りないのだ・・・。もちろん、安藤の事も気になってはいたが、麻十城の話を聞いている自分は単純にこの技術的な内容をもっと知りたいという欲求に駆られていた。

 ちらっと朝奈の方をみると、視線はななめ前に座っている麻十城の方を見てるが、その表情は困惑な色を浮かべていた。まあ、一般的には興味の無い事だから、さらっと話を聞いただけ理解しえるとは思えない。ただ、自分の身に降りかかっていることなので、朝奈は食い入るように聞き込んでいた。

麻十城は本条の様子にかまわず話を続けた。
「で、もっとも有名で多分話の流れからいくと、『真夜』はこの方法でクローニングされたのではないかと考えられる。だがあくまでそうであった場合の話だが・・・」

白い紙にボーペンで書きながら説明をしている。

・体細胞核移植
と書かれその文字をつつきながら話を続けた。

「まず、コピー元となるものから、乳腺、皮脂組織などから、体 細胞を切り取るんだ。この切り取った状態では皮脂細胞なら皮脂細胞になる遺伝子しか活動していないので利用できない、
 そこで、細胞を培養するのに必要な20分の1の培養液で培養する。そうすると活動休止状態になり、データが初期化され今まで眠っていた別の遺伝子まで活動を始める。
 そうしたら、未受精卵に埋め込む。この場合だと他の二つに比べて制限がなくなる。未受精卵を用意できるだけクローニングが出来るって方法さ。」

麻十城はしゃべり続けて乾いた喉に本条の飲み残したコーヒーを流すと、椅子に座り直し、今度は朝奈の方を見ながら話だした。
「いままでの話の流れからすると、君の父親は双子で産まれてくるはずだった子供の指をつかって、クローニングに必要な核を作成したと考えられる。あのFDに入っていた研究報告の内容はその後の経過が記されてある。」
朝奈は、その話を確認するかのようにうなずいた。
「今の化学では、受精した卵子を子宮に戻してクローニングしている。代理母という奴だ。試験管の中で受精したと言っても結局は人間の母胎が必要になってくる。もちろんそれは君の父親も同じ方法を取っている。って事はだ・・・。」
麻十城は、目線を朝奈から本条に移動すると促すよな視線を送った。
その合図に会わせるように本条が口を開いた。
「『真夜』を育てた人物がいるってことだ・・・。」
にやっと麻十城はほくそ笑んだ、朝奈はハッとした様子ではいたが反応することは出来ていなかった。
唖然とする朝奈をよそに、麻十城は話を繋げる。
「そう、卵子からある程度まで成長させるには子宮が必要になる。どこかに『真夜』を産んだ女性がいるはずだ。」

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2006年6月24日 (土曜日)

第7回(2)

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              7-2

 いつものコースをパタパタと音を立てて歩いている。生徒には普段と変わらない様子に見えるだろうが、麻十城は浮き足だった様子で、廊下をほんの少しだけ、早く歩いていた。
 と、特別教室がある棟までくると、ひっそりとした空気が流れていた。自分の歩く足音が異様に響き静けさを強調させている。
 普段なら其処には人がいる様子もないので、さっと通り過ぎていたが、今日はいつもと様子が違った。化学室の前にくると、隣の部屋の中から、男女の話し声が聞こえた。 下校時刻が来ていることを告げようと、その扉を開けようと手をドアにかけた時、2人の会話に引っかかった。
「・・・クローンだったと・・・でも・・・」
「それは、・・・・」
良く聞こえなかったが確かに『クローン』と言う言葉が聞こえた。
いつもなら、そんなに気にしないだろうが、さっきまで、例のものを見ていた麻十城には簡単には流せない言葉だった。
 ガラっとドアを開けると、学生服の男子生徒が最初に目に入った。自分が開けたドアに驚いてこっちを振り返って見ている。
「あ・・・」
下校時刻だぞ、などと普通に話かければ良いのだろうが、なぜ言葉が出てこなかった。「麻十城・・・先生・・?」
書棚で、影になっていて入り口からは確認出来なかったが女子生徒の声が奥から聞こえた。
「あ、お前達、下校時間だぞ・・・」
繕うように、言っては見たものの、上手く文章になっていない。そんな事が言いたいんじゃない、さっきの話は何なのかが聞きたかった。麻十城は逸る気持ちを自制し、部屋の中へ入っていった。
「あ・・・」
何歩が進と先程の声の持ち主の姿がモノのかげから現れる、そして、麻十城が見た者は、
「君・・・さっきの・・・」


 安藤朝奈は、きょとんとした顔で、麻十城の方を見ていた。
「あ・・・、これっ・・・」
慌ててポケットからFDを出す、だが、朝奈は不思議そうな表情で麻十城の様子を見ていた。
「なに?これ?先生」
そう言って、話を繋げてくれたのは、朝奈の向かいに座っていた、本条と言う生徒だった。
麻十城は本条の事は知っていた。同じ気質を持つ者同士の見えない糸があるのかどうかはわからないが、前に2,3言話をしたときに何となく同じ空気を感じたので、覚えていた。
その本条がさっきの女子生徒と話している、しかもその内容は、FDの中身と関係があるような話をだ・・・。 麻十城は一瞬間をおいて、本条に視線をむけた。
「これ、なんだけど。さっき彼女が保健室に忘れていったんだよ。」
朝奈の方を指さしながら、そう説明した。
「え・・・?」
言われた朝奈は全く知らない事の用な顔でこっちを見ている。その様子を見た本条は、麻十城の手にあったFDをさっと抜き取った。
「・・・・」
本条はFDのラベルを見ると、動きを止めた。
「どうした?彼女のじゃ、ないのか?」
麻十城は、不思議そうに本条に問いかけたが、彼からの応答はなく目の前の朝奈を見ていた。
 本条の目の前には一枚のFDがあった。黒い何処にでも売っているモノだったが、そのラベルに書かれてある言葉が問題だった。そこには『contraindication』と一言、書かれてある。
 その言葉は今自分たちが関わっていることに大きな関係をもつ言葉だ。本条はジッと視線を固めたあと朝奈の方を見た。
 もし、これがあのFDのコピーだとしたら、その元を持っているのは朝奈である。「おい、あれどうした?」
目の前に座っていた朝奈に、FDを手渡しながら問いかける。その、FDを受け取った彼女も本条と同じ反応をしたあと青ざめた顔をして、鞄からもう一枚のFDをだした。「これ、誰かに貸したり、一時期でも無くした事あるか?」
鞄から出されたFDと保健医の麻十城が持ってきたFDを机の上に並べると朝奈に続けて質問した。
「ううん、ずっと持ってた・・・。」
その顔に嘘の色はみあたらない。本条は椅子をキュッとならして、振り返るとFDを持ってきた麻十城の方を見た。
「なあ、せんせ。この中身見た?」
本条を見る視線は、まるで犯罪者を見るような視線をしていた。その視線に慌てたのか、本条は少し狼狽えた様子をした。
「別に攻めてるわけじゃない。」
そう、フォローには聞こえずらい言葉を投げかかると、麻十城は少し落ち着いたのか、コクリとうなずいた。
「で、中身は・・・・」
「クローン体の研究報告」
そう言った麻十城の目は先程の狼狽した様子は全くなく本条と2人で、朝奈の入れない空気を作っていた。
「これは、なんなんだ?」
そう質問された本条は、またも、答える様子を見せず再度、朝奈の方を見た。
「・・・本条・・くん?」
不安そうに見つめる朝奈をよそに本条は2枚のFDをジッと見ていた。
「○○大学・・・理工学部卒業・・・」
ボソボソっと本条は言うと、様子を伺っていた麻十城の方をみて
「あんた・・・・」
「ああ」
麻十城にはなにが言いたかったのかが解ったらしい。ただ、意外だったのが麻十城の情報を本条は知っていたと言うことだ。だが、そんなことは今はどうでも良いことだった。
「安藤!・・・麻十城に話してもいいか?」
と、了解を伺った。
 朝奈は、訳が分からなかったが、今は自分よりも本条の方が頼りになると思ったのか、二つ返事で了解した。

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第7回(1)

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                  7-1


 保健医である麻十城要は、夕方の廊下を窓の外を見ながら歩いていた。
大学を卒業して教員資格を取得したものの教職の空きはなく、その間の待ち採用として、コネで中学の保健医として就任にていた。
 待ちの間だけと言って毎日が退屈で仕方がなかった。
もともと大学では、生物学を学んでいて、本当ならあのまま大学に残り研究者としてまだまだ調べたいことが山のようにあった。
だが、それは叶わぬ夢となった。仕事も付かずに暮らしているのも体裁が悪く、こうして今をただ過ごしていた。
 きちんとした医師とカウンセラーが定期的に来るこの学校では、保健医と言うのは名ばかりで、ほとんどが学校の小間使いだ。「学校便り」の作成や、他校との交流関係の仕事など、担任を持っている先生では忙しくてやりきれない、が誰がやっても変わらない仕事が廻ってきた。
 この、放課後の見回りも毎日麻十城の仕事になっていた。見回りといっても、校舎に残る生徒に早く帰るよう注意を促すだけだ、本当の見回りは当直の先生と警備員できちんと行われている。なので、なかばいい加減に校舎を一週するだけだった。

 その日もいつものように昼間さして重要でない仕事を適当に片づけながら、保健室で仮眠をとっていた。
 天気のいい日で机の上でウトウトしているとドアがノックされてガラっと言いながら開かれた。麻十城はボーっとした頭で振り返ると、真っ青になった女生徒が今にも倒れそうな様子でたたずんでいる。
「大丈夫か!!」
麻十城はハッとして女生徒の側に駆けよった。手を差し出した次の瞬間彼女は、そのまま意識を飛ばして麻十城の腕に倒れ込んだ。
 ベットの上で、スヤスヤと寝息を立てている、女生徒の顔も見た。その顔は、目の下にくっきりとクマを残し、頬は痩けていた。彼女に何があったのだろうなどと、無責任な好奇心をもっていた。だが、特に調べるという訳でもなく、ベットの横に置いたパイプ椅子に座って寝顔をジッと見ていた。

キーンコーンカーンコーン・・・・

 2人の間にあった。意味のない静寂は授業の終わりを告げるチャイムで、壊されたのだった。麻十城はハッとして、パイプ椅子から立ち上がると、本来自分の椅子である席に戻った。
 ちょうどその時、自分を呼び出す内容の放送が流れた。職員室に行くと、またあまり重要でない仕事を任され、顔では笑顔を作ってはいたが内心、またかと少し腹を立てていた。だが、それを外に出してしってはいけない。ハァーーーっと深く息を吐くと渡された書類を片手に保健室に戻る廊下を歩いた。

 何故か、何故か麻十城はさっきの女生徒が気になっていた。廊下をパタパタと小走りで歩く。保健室に続く真っ直ぐな廊下はいつもより少しだけ長く感じた。目の前の保健室の扉が開き中から男子生徒が出てきた。
「あ、先生」
その男子生徒に声をかけられ、催促される。
「先生~、けが。見てくれない?」
麻十城はその言葉は、半分しか聞こえてなかった。ただあの女生徒だけが気がかりだった。
 保健室に入ると男子生徒を座らせて、彼女がいるベットのカーテンを少し開けて中を確認する。しかしそこにはもう女生徒の姿は無かった。起きたあと布団を直したのだろう。それまで其処に人がいたという跡は残っていなかった。
 麻十城は少しがっかりした様子で、勢い良くカーテンを閉めた。と、カツンとつま先に何かが当たった。
床には一枚のFDが落ちていた。
 男子生徒を看たあと、麻十城は鞄から、自前のノートパソコンを出すと、落ちていたFDを入れた。
「中身がわからなきゃ、返せないもんな・・・」
などと、言い訳がましい独り言を呟いている。画面は起動が終了し、FDの中身を読みとっている。と動きが止まると、パスワー ドの画面が表示された。
「・・・っ、パスワードかよ・・・」
諦めようと思ったが、何故か異様にその中身が気になっていた。さっきの女生徒のモノだとしたら余計に興味がある。
思いつく言 葉を入れて見たが、パスワードは解除されない。興味はあるものの何度も同じ画面をみて麻十城も飽きてきたので、この辺で終わりにしようと思い、FDをパソコンから抜いた。
 と、さっきは気づかなかったが、FDのインデックスラベルに文字が書かれていた。無理だとは思ったが、試しにその文字を打ち込んでみた。

 パソコンのハードが音をたて動きFDを読みとる作業をしている。すると画面はさっきまでとは違うモノを表示したのだった。
「んだよ・・・これじゃあ、パスワードの意味ないじゃんか・・」
などと、ケチを付けてはいたが、麻十城の表情は嬉しそうだった。しかし、その表情はすぐに変わることになった。

 画面に出されていく内容をみて麻十城は唖然としていた。出されたものは、大学時代に研究し、進めていた遺伝子研究の報告書だった。だが、それは自分がやっていたことより遥かに進んだ内容だった。これを学会に提出してみたら、世間は驚くに違いない。時間を忘れて内容を確認するように読んでいく。

 気づくと窓の外はもう、赤く染まっていた。
「あ・・・・見回りの時間か・・・」
FDの内容は気になったが、一応仕事もしなくては行けないと思いパソコンから、FDを抜くと白衣のポケットに押し込んだ。持ち歩く事にしたのは、このすごい研究結果を他人に見せてはならないと思ったからだ。
(まあ、一般人が見たところで理解出来る様な内容では、ないが・・・)

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第6回

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『クローン体の報告』
 とタイトルが書かれたA4用紙の小冊をペラペラとめくりながら本条は校舎の裏庭に寝そべっていた。
 朝奈の持ってきたフロッピーには一見読んだだけでは理解し得ない文章がA4の用紙に約30枚近く印刷された。
 文章は教科書の様に誰にでも解るようには書かれていなく、このまま論文として発表するかのように難解に表現されてあった。
IQ120位あるような天才ならともかく本条は一般高校生だ、読んでいても全く意味が解らない。
 仰向けの身体をゴロンと回転させるとはぁっとため息をついて続きの文章を読み始めた。

 本条春人は最近安藤朝奈と知り合った。
1年の時のクラスメートだった太田衣子の友人が相談があると言われて紹介された。
本条は化学部に所属していたが、その活動には参加はせず独自で研究をしている事が多かった。
 周りからは変わった人の扱いを受けていた。 衣子とは、元クラスメートとは言っても、2,3言話しただけである。
だが、衣子にとっては、クラスメート=友達なのか、久しぶりに話したというのに語尾を延ばす様なしゃべり方で、なれなれしく話しかけてきた。本心は少し苛ついていた。
 紹介された朝奈は暗く、自分自身が今どんな顔をしているのか気づいてないのだろう、目の下にくっきりとクマを作って疲れ切った様子だった
 本条はこの相談を受けることにはじめ乗り気では無かった。自分の研究・・・と言っても、今は得にテーマは決まってないる訳では無かったが、今までやっていた菌についての研究に飽きていたので、新しいものに移りたいと思っていたのだ。
 
 二人きりで、部室にいるときも、口べたと言うこともあるが、何をしていいのか解らなかった。
向かい合って冷めたコーヒーを飲んでいると、しばらくして朝奈は席を立った。
 本条は先程から変わることのないパソコンの画面をジッと睨み付けた。
「キーワードねぇ・・・中身がなにか分からないんだから、みつかりっこないよなーーー。」
と、愚痴をこぼした。

 ガラっと後ろで扉が開いた。音に反応して振り返ると今出ていったばかりの朝奈が戻ってきていた。
「・・・・?」
だが、なんとなくさっきと雰囲気が違うように感じる。顔も格好も同じなのに微妙に何かが違う。
「本条くん・・思いついたのキーワード・・」
表情の無い顔で唇だけが薄く開いた。
なぜか、ゾッとした。
「で・・・、今度は?」
さっきから何度も繰り返し入力してはエラーを出していたので、少し苛ついたように聞き返した。
 すると彼女は静かに近づくと白い人差し指で、パソコンのキーボードをゆっくりと押し始めた。

『contraindication』

入力が終わりenterを押す。無理だとは思いながらも、ハードが動いてる音を聞きながら画面を見ている。
すると一瞬ディスプレイが暗くなると、パスワードが解けたのだった。
「おい・・開いたぞ・・・・」
驚きながら、瞬間動きが止まってしまったようだった。そしてハッとして隣を振り返るとそこにいたはずの彼女は居なくなっていた。
 本条はその事は特に不思議に思わず、画面に映し出された内容にとりつかれていた。


 校庭の裏庭の芝生の上に横になって印刷された文章を読んでいる。あと数枚で、最後まで読み尽くすところだ、細かい文字で、印刷された文章は見ているだけで気が遠くなってくる。
 もしこれが教科書だったなら、必要部分以外は読むことは無いだろう、だがこれは別の話。
読み終わった所で、理解など出来ない物の束をボソッと芝の上に放ると、仰向けになって空を見上げた。
「クローン・・・・」
あの時、本条の目の前に現れた女性は雰囲気さえ違えども、何処をどう見ても同一人物に見えた。
 たとえ全ての遺伝子が同じ一卵性の双子であったとしても、距離が離れた状態で育てば生活課程で、微妙に変わってくるものだ、だが、双子ではない人物が同じ顔、同じ声、同じ表情、を持てるのだろうか・・・。
 本条は静 かに雲が右から左へ移動するのを目で追っていた。そうして、何を考えれば道は繋がるのか、どう動けば答えがでるのか分からず一つ深くため息を付いた。



 放課後、化学準備室で待ち合わせをしていた朝奈は、本条が来るのを待っていた。
約束の時間を15分過ぎたが、本条が来る様子が無く不安な気持ちが溢れていた。
「もしかして、もう来ない・・・」
言葉にしてしまうと本当になるようで全ては言えない、ただこうなって欲しくないので、不安を押し切る様に、父親が残した研究を読み始めた。
 何度読んでも理解することは難しい、だた考えられるのは、『真夜』はもしかしたら、自分のクローンではないかと言うことだった。だいぶ前にニュースなどで羊が成功したとか、大豆や野菜に使われていて問題があるなどのレベルの話までは分かる、だか、この仮定が正しい物だとすると、今までのレベルより大幅に上廻ったことになる。もしそうなら、父はなぜ世間に公表しなかったのだろうか・・・。
「悪い、遅れた・・・」
ガラッと扉を開けて本条が入ってきた。
  朝奈はホッとして肩を降ろすと、少し不機嫌に見える本条を迎えた。




 ホームルームが終わり、教室から個々に同じ制服を着た生徒が教室から逃げ去っていった。何人か残った教室はあっという間にシンっとした空気を作っていた。
「いきたくね~な」
 教室の一番後ろで椅子に体重を全てかけて、延びをするような格好で、本条は呟いた。
昼間訳が分からない物を読んで頭がこんがらがっている今、安藤顔を見たくなかった。だがなぜか本心とは別の所で、ざわついた気持ちが生まれている。それは好奇心と言う名なのかもしれない。それは知らないものは分かるまで調べ尽くさないと落ち着かない研究者の資質なのか・・・・。
 これをきっと謎説いていったらさぞかし面白いだろう。本条の意志は本心よりも、好奇心の方に持って行かれたのであった。

 準備室のドアを開けると、安藤がなにかブツブツ言っていた。それから、自分が来た事を知ると、不器用に微笑んだ。その表情はきっと昔はすることは無かったのだろう、顔の作り決して悪い訳ではないので、少し前までは、友人達と楽しそうに笑ったりしていたのだろう、ただ、今彼女の表情は顔の上に一枚曇ったセロファンを貼ったかの様に曇った表情しか見せない、それは、彼女の心を閉じこめるまでの辛い出来事があったのかと思わせられた。
 向かい合って座ると、少しの間沈黙が続いた。その空気を壊す様に朝奈は、さっき考えた疑問を本条に問いかけてみた。

「人間のね、クローンは良くないされているんだよ。人権的な問題が起こるからね。」
意志の現れない植物や、家畜の動物は研究材料として行われている。
 だが、人間に関しては、そのクローンとして誕生した物をどう扱うのことが正しいと言う定理が不完全であるため、公には発表できないのであった。
 噂では、海外では、人間の卵子を使ったクローン研究が密かに行われ成功しているらしい。だが、それはあくまで噂の上の話だった。
 もし、発表したとしたら、その研究者は栄光と共に、非難を浴びるだろう。朝奈の父親もその点に関しては、人並みの感情をもっていたのかもしれない。
「じゃあ、あの人は悲しい人なんだ・・・」
小さな声で、そう言ったのを聞き逃さなかった。
 確かに客観的にみれば、もし、真夜という人物が朝奈のクローンであったとして、制作者の父親にひた隠しにされ、世間から存在得ないモノとして扱われたのなら、『悲しい人』と素直に言えるであろう。
 だが、朝奈は彼女に直接からんで、今も被害を受けている身だ。それなのにその言葉を素直に吐いた。
 本条は自分では一生理解出来ない考えだ。っと思ったが、口にはしなかった。
 
 
 二人が準備室にきたところで、どう話が進むわけでも無かった。暗中模索の状態なのだ、どこから手を出して良いかわからない。だが、少しずつでも進めなければいけない。二人はまず、『真夜』が現れたと思う時間と行動をまとめることから始めた。

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2006年6月22日 (木曜日)

第5回

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                5


 キーボードを叩く音が聞こえた。
化学室の隣にある狭い部屋に朝奈と本条春人が一台のパソコンの前に向かっていた。
 本条は衣子から紹介してもらった友人で今回手助けしてもらう事になっていた。身長だけが異様に高く体格があまり良くないせいか、ひょろ長い棒の様な印象だ。
前髪をボサボサと降ろし、枠の無いメガネを鼻に引っかけていた。
お世辞にもきれいとは言えない部屋は、机の上は本が積み重なり、よく見れば隅の方に大きな綿埃まである。
 その部屋の中には二人の他に人の様子は無く元々口数の少ない本条と二人で沈黙が続いていた。
目の前のパソコンには例のフロッピーが入っている。だが画面はフロッピーを開くためのパスワードの入力の位置で、止まっていた。
 父親の仕組んだパスワードが解けずにいたのである。思い当たる言葉を幾度となく入力してみるが、エラーメッセージが表示されるだけだった。
 もちろん「真夜」っという言葉も試してみたが、動く気配はなかった。放課後に入る前に買った缶コーヒーのプルトップを開け二人は休憩を取ることに決めた。
 もう時間が経っている所為かホットのはずのコーヒーはぬるまゆくなっていた。
向かい合って座ってはいるが、会話はなく、沈黙に耐えかねた朝奈はトイレに立った。
もう大分日が落ちていた。廊下の電灯がついているが、窓から夜の闇を感じさせていた。

校舎の遠くで運動部の人達か誰かの声が聞こえる。
それとは反対にシンっとしたトイレの中に入ると、ヒンヤリとした空気に包まれた。
゛嫌な感じ″虫の知らせと言うものなのだろうか、根拠もなくただそう思えた。
急いで準備室に戻ると本条がパソコンの前に座っていた。画面に向かってマウスを何度かクリックしていた。
「開いたの・・・?」
息を弾ませて近寄りながら、話しかける。
「そう。」
ドクッと心臓が高鳴った。
「パスワードはどうしたの?」
心臓の位置で手を強く握った。
キーボードを打つ手を止めて振り返った本条は不思議そうな顔をした。
「何を言ってるんだい?君が言ったんじゃないか。」
そう言って回転いすをキュと鳴らすとまた画面に向かった。

(・・・・真夜・・・・・)

 鳥肌と共に冷たい汗を感じて身震いをした。寒いはずなのに身体のなかは熱く思える、血が逆流している様だった。身体がカタカタと小さく震えていた。
その様子に気づいた本条はもう一度振り返った。目の前には、顔が真っ青になった朝奈が立ちつくしていた。
「・・・安藤?」
 その様子はとても尋常では無かった。目は本条の方向を向いてはいるが、視線は何処を見ているのか解らない。真っ青になって立ちつくす朝奈の肩をつかむと軽く頬を叩いた。
たどたどしい視線が本条に向けられる。
「一体どうしたんだ?」
力強く言うと、意識がハッキリしたのか朝奈は自分の意志で椅子に座った。

 本条の言葉で、自分が何をしているのかに気づいた朝奈は不思議そうな心配そうな表情をした彼の方を見た。
色々なことが頭の中を駆けめぐったが、考えた末協力してもらってることも有るので全ての事を本条に話すことにした。

 時計の短針が一周廻り終わった頃、本条はあっけに取られていた。聞いている最中は信じられないと言う面もちで静かに聞いていた。
 朝奈もこれが普通の人の反応だよななんて事を感じながらそれでも真剣に話していた。 話し終わっても反応のない本条に対して、ため息をつこうとしたとき、彼は表情を余り変える訳ではなく薄い唇の端を上げ何かを企んでいる楽しそうな子供の様に笑った。

朝奈は少し怖くなったがそれと同時に「真夜」をお追いかける仲間が出来たことに喜んでいた。


フロッピーを開けるパスワードは
 「contraindication」
まだ二人は言葉の意味も解っていなかった。

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第4回

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                4

 父親の通夜も無事終わり、母親もどうにか自覚を取り戻し、前の日常が又始まった。違うことと言えば家の周りを私服の警察が彷徨いていることだった。
父親の死には不振な点が有るらしい。一度は心筋梗塞と判断され家に帰ってきたのではあったが、その後の二度目の解剖でその不振点が発見された。
 なので父親の遺体は49日を迎える今になっても火葬されず警察の元に居る。身体を切り刻まれどうにか人型を保っているだけの人形となって・・・。
 その遺体から有る物が発見されたのであった。腹部のちょうど盲腸の上の位置にどうやっても入り込むことが出来ない物・・。
 小さな指が、内臓を引っ掻くように埋まっていたのである。警察も監察医も訳が解らずどう対処していいのかさえも断定出来ないでいた。
 ただ自殺や自然死だけではないと言うことが、関係者全ての同意見だった。理由はなくても、ただ漠然とそう感じていた。
 その為家の周りには何か手がかりを探す警察が常時ついていたのであった。警察の目を抜けながら朝奈は帰ってきた。もう何日も家の中に閉じこもっていた朝奈はその厳しい視線が恐ろしかった。
 買い物から帰ってきて静かに家に入ると、買った物を冷蔵庫に押し込んでから父親の部屋へ入った。
 いなくなってからもそのままにしてあった部屋は閉め切ってあったので少し黴くさく感じた。
その部屋の中に「真夜」に関する物がないかと何度か朝奈は探っていた。だがそれらしきものはでてこない。
手がかりは父と一緒に戻ってきた小さな鞄の遺品のみだった。

 朝奈は「真夜」に会った次の日から鞄を毎日の様に調べたが、出てくるものは変わることはなかった。財布(カード、札、小銭、テレカ)タバコ、ライター、ペン、タオル、そして一枚のフロッピーディスクだ。
 朝奈はパソコンを使うことが出来なかったので唯一重要な手がかりになりそうなフロッピーはどうしようも出来ずに困っていた。
だが今日久しぶりに太田衣子からの電話で、衣子の友人に手伝ってもらえるように話を決めたのであった。
 朝奈はフロッピーを ケースごとポケットに入れると他の中身を元の通り片付けて部屋から立ち去った。
 ポケットの中のディスクが本来の重量より重く感じられた。

 部屋に戻る為に階段を上ろうとした時、母親の声が聞こえたのだった。朝奈は足を止め、声のする部屋の方へと引き返すと母親後ろ姿か目に入った。
 もともと大きくない体を半分に折りなにかボソボソと話している。母親に気づかれないようにそっと様子をみて朝奈はゾッとした。
 母は父の写真を見ながら何かを呟いている。相手はだれも居ないはずなのに目の前に父親と会話している様に話して笑っていた。父親の死語笑顔を全く見せないでいた母親が、良くは見えなかったが確かに笑っていたのであった。


 部屋に戻るとフーっと大きくため息をついた。
(母には相談できない・・・自分でやるしかないんだ、最後まで・・・。)
  部屋のドアにもたれかかりながら遠くを見つめる。
「最後なんて、あるのかな・・・・・」
それが本音だったのかもしれない。朝奈はボソッと小さな声で呟いた。



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2006年6月21日 (水曜日)

第3回

                  

                  3


Trrrrr
けたたましく鳴る電話の呼び鈴にがばっと反応して身体を起こす。
 下のダイニングで母親が受話器を取った様だった。外はまだ明るいと言うのにカーテンを閉め切り布団にくるまっていた。
 朝奈が学校に行かなくなってから幾日か経った水曜日、母親の勤め先が休みだったのもあっていつもは朝奈が出る電話も今日は気にしなくて良かった。
 ベットの上に座ってじっと動かず下の様子を伺った。数分のち電話を置く音が聞こえ、次に母親の泣き声が聞こえた。
 朝奈は慌てて階段を下りダイニングのドアを開ける。目に入ったのはテレフォン台の前で泣き崩れている母親の姿だった。
「どうしたの?!」
側に駆け寄ると肩を揺すりながら母親の顔を見る。
「ねぇっ・・どうしたの!お母さん!!」
その表情は意識が飛んで青ざめている、瞳からは涙が止まらずに溢れている。朝奈は意識を取り戻そうと強く肩を揺さぶった。
「あ・・・お父さんが・・・・」
ようやく蚊の鳴くような小さな声で答えた母の解答は朝奈にも大きいショックを与えた。


           お父さん・・・死んだって・・・・


 冷たくなった父親の顔を見ても自分の実父である実感が湧かなかった。ただ意味は分からないが何故かモヤモヤした気分が続いていた。
 
 17年ぶりに帰ってきた父親はそのまま棺に入れられ、略式ながらも通夜と葬式が行われていた。母親はあれから床に伏せたままだった。たとえ朝奈が産まれたときに蒸発した夫でも、やはりどこかに生きているかもしれないと言うことが母親を支えていたのかもしれない。
 動けない母親の代わりに親戚のおばさん達に助けられ、朝奈は初めての喪主を務めていた。
悲しいと言う気持ちは全く無かった。焼香に来る来客に事務的にお辞儀をしながら父親の写真を見ていた。その様子は端から見たら落ち込んでいる様に見えたのかもしれない。
 
 
母親の姉である玉田智恵子がそっと肩を叩いて、申し訳なさそうな顔で話しかけてきた。
「朝奈ちゃん・・さっき外にいなかった?」
小声で囁かれたはずなのに朝奈の頭にハッキリと響いた。
その意味を理解する前に朝奈は部屋から飛び出していた。お坊さんの読むお経だけが聞こえる静かな部屋が一瞬ざわついたがまたもとの静けさを取り戻し死者を送るお経が続けられた。
 息を切らして裏庭に出ると人の気配は無く、夜空に月がくっきりと姿を映していた。その周りには雲1つ、星1つさえ見あたらず闇が朝奈を包んでいた。
 何度か辺りを伺うが何も感じられない。

「・・・もう・・・いない・・・?」

 あきらめて家の方へ身を翻すと、突然背中に視線を感じた。
そのまますぐに振り返りたかったが、なぜか身体が思うように動かない。音もない緊張の中背筋に汗が流れるのがわかった。

(後ろに・・いる・・・)

心臓はドクドクとまるで生き物の様に息づいている。
「あ・・あなた・・・・誰?・・・」
必死の思いでようやく言葉を口にだした。するとそれがきっかけだったのか後ろを振り返る事が出来た。
 決して丸ではない妖しく光月を背に、あの日の夕方に会った人物『もう一人の朝奈』が立っていた。
彼女はただじっと微笑んでいるだけだった。
「誰よ・・・あなた・・・」
恐怖で涙声になりながら叫ぶ。
 すると彼女はゆっくり一歩一歩朝 奈に近づいてきた。

動けなかった。鳥肌が全身を包み血管が波打つ。強く握った手のひらは汗でしめっている。
彼女はそっと手を伸ばすと朝奈に触れられる位置まで近づいている。
 身体が強張った。とても生きている様に思えない程の冷たい手を朝奈の頬に滑らすと、顔を寄せる。朝奈は蛇に睨まれた蛙の様に抵抗も出来ずされるままになっていた。 目も瞑ることは出来ずに近い目線がかさなる。朝奈を見つめる彼女の視線が微笑むとゆっくりと唇が動いた。
「私の名前は、真夜・・・もう一人の貴女・・・。」
クスクスと楽しそうにそう言うと、その唇はゆっくりと朝奈の唇と重なった。



 風が窓を叩く音で目が覚めると自分のベットではない布団の中だった。
母親が寝ている隣の狭い畳の部屋に来客用の布団で横になっていた。
「何が・・・・あったの・・・・。」
自分で何があったのかわからない。ただ『真夜』という言葉だけが頭の中にくっきりと鮮明に残っている。
朝奈は上半身を起こすと頭を強く振ってみた。

 リビングに戻ってみると智恵子が心配そうな顔で駆け寄ってきた。
「朝奈ちゃん、大丈夫なの?」
「あ、はい・・あの・・・私・・・」
 なるべく平気そうに笑顔付きで答えると、少し安心したのか朝奈が庭で倒れている所を見つけたことを教えてくれた。
 そして『真夜』という名前も聞き覚えがないか聞いてみたが智恵子をはじめ親戚中、口をそろえて知らないと言うことだった。
 朝奈は自分に何が起こっているか解らない、ただもう人もほとんど居なくなった父親の遺影をじっと睨むように見つめた。
隣の部屋で寝ていた母親の声が聞こえた。なにか呻いているらしい。朝奈はもう何をすればいいのかさえ解らなく、途方に暮れていた。

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第2回

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17年後
 安藤朝奈は学校の帰り友人とカラオケに行った後、帰路についていた。秋の始めともあってまだ7時近くなのにずいぶんと日が落ちていた。細い道には10m間隔に街灯が暗闇に小さな抵抗をしている。
 
 朝奈は、その何本か先の灯りの中に人の影を見つけた。その影は進でもなく、向かってくるでもなくただ近づく朝奈をじっと見つめていた。
 気持ちが悪いと思いながらもこの道を通らない事には家につけない。緊張のあまり早く歩きたいのに余計に歩みが遅くなる。
 一歩一歩近づいていく、やがてその人影の顔がはっきりと確認出来る距離まで来ると、朝奈は急に立ち止まった。止まったのではなくそこから動くことが出来なかった。 視線は目の前の人を凝視している。その相手の顔は自分と同じ顔をして立っていたのである。
 着ている服は違えども、腰近くまである髪も産まれたときからある口元のほくろまでも同じ顔が自分を見つめて微笑んだのである。
 その笑顔は嬉しさや楽しさを表す顔では無くどこか憎しみさえ感じる笑みだった。
 朝奈は恐怖でいっぱいになりながらもそこから逃げ出そうとしたが足が思うように動かない、気持ちばかり焦っている。足が絡む、転びそうになってバランスをとる時後ろを振り返ってしまった。だがそこにはもう人影はなくなっていた。
 朝奈は何が起こったのか分からなかった、だが今まで思うように動かなかった体がすんなりと自分の思うように動いた。身体の中で恐怖が蠢いている。朝奈はその場はから逃げるように家へと向かった。

 
玄関のドアを勢いよく閉め自分の部屋へ駆け込む。
 まだ母親は帰って来ていないようだっだ。何の音もない静寂の空気の中両腕に鳥肌が立っているのに気づいた。ブルッと身を縮めるとベットに潜り込んだ。全速力で走ったせいか心臓の音が耳のすぐ側で聞こえる、血液が氾濫した川のように流れているのを気づかせた

(あれは・・・ドッペルゲンガー・・・?)

 シーツを力一杯握る手は、汗で湿っている、心臓がドクッと大きく音を立てた。

(・・・・・もしかして・・・お姉さ・・・)

 そう思ったのは本当に突然だった。

(姉は死んだはずだ・・本当は生きていた?・・・)

 そう考えればさっきの人の存在理由が解る。自分と酷似した人間は存在する。だが母親が嘘を吐いているようには思えなかった。疑問が考えを呼び頭の中が錯乱し始めた、一人きりの時間が遅く感じた。

 どの位経ったのだろうか、玄関の閉まる音がして母親の帰宅に気づいた朝奈は布団から顔を出した。
 時計を見ると短針は8時近くを指している。朝奈にとっては何時間にも感じられた時間はいつもと同じ時間に帰ってきた母親によってまだたいして過ぎていないことを気づかされた。
 愕然とする気持ちをよそに聞きたいことがそれ以上にあった。逸る気持ちを抑えながら階段を駆け下りるとリビングには母親が笑顔で迎えていた。
 「あ・・・お帰りなさい・・・。」
母親の笑顔を見て少し動揺は収まったのか朝奈もニコリと微笑むとダイニングテーブルに近づいていく。
 自分ではキチンと笑っていると感じていたか他の人の目にはぎこちない笑顔だった。 「ただいま朝奈、どうしたの?」
 その様子に気づいているのか心配そうな顔でのぞき込んでくる。
 「あ・・・うん・・・」
 母の優しい心配そうな顔に落ち着きを取り戻しながら朝奈は母親に質問を投げかけた。
 朝奈の口からでた「姉」と言う言葉は母親に辛い思いをさせたのか悲しそうな表情を浮かべた。だが母の口からは、「お姉さんは死んでしまったの」 と言う言葉しか出てこない。
 それが朝奈を騙しているようには見えなかったのである。沈んでいく娘の表情をみて母親は今までした事がなかった父親の話を始めた。
 朝奈は産まれた時から自分に父親がいないのを不思議に思っていた。その理由を母親に聞くたびに悲しい顔をして口を噤む母にこれ以上は聞いてはいけない事なのだと子供心に思い、それ以降深くは聞くことは無かった。自分の父親は初めからいないものだと思っていた。
 その父親の話を母は刻々と始めたのだった。

 朝奈の父であり夏美の夫である安藤修二は製菓会社に勤める研究社員だった。
元々研究者気質と言うものなのか、夏美と結婚した後もあまり家には帰らず黙々となにかを研究を続けていた。
 夏美とは見合いで知り合ってそのまま結婚をした。修二にとっては世間体を気にしての結婚だったのかもしれない、夏美の方も大人しい性格だったので何も言えず静かな生活を送っていた。だが、夏美の妊娠という事で修二は少しづつだが家庭に近づくようになっていた。そして朝奈と産まれてくるはずだった子供の指が産まれた日、表情をあまり崩さない修二の初めての涙を夏美は見たのだった。それは感動の涙と思った夏美だったが、翌日修二は小指と一緒に夏美の前から姿を消したのだった。
 職場にも、友人の元にも連絡はなく17年経った今もどうしているのか解らなかった。ただ夏美は、死亡宣告を受け入れることはなくまだ”安藤”の名前のままでいた。

 
  テーブルに置いてあるカップは手もつけないまま冷たくなっていた。
 向かい合うように座っているが目線が合うことは無く、話終わった今も母親はじっと俯いていた。
 朝奈は声をかけるでもなく席を外した。シンとした部屋の空気の中にまだ収まらない自分の心臓の音が響いてきこえた。
 父親の話を聞いても疑問は消えることはなく謎ばかりが増大していく。本当はさっき見かけた女の人の話をしようかと思ったが、何も言わない母親を見て何も言えなかった。
 辺りはもう暗くなっている。朝奈はそのままベットに潜った。そのまま眠りの中へいければ良かったのだが、無理矢理眼を瞑っても、女性の姿が頭をよぎり、結局朝まで眠ることは出来なかった。
 

  その日の朝は母親に心配をかけまいと学校へ向かった。朝奈の心とは正反対に、水色の雲1つないハッキリとした空が広がっている。しかし朝奈は空を見上げることはなく、ゆっくりと重い歩みを進めていた。
 
 ふと気づくと同じ制服を着た人が朝奈を追い抜かしていった。
 そこでもうすぐ学校なのだとわかった。いつと同じ登校の風景が自分の心一つでこんなにも違って感じるものかと思った。
 自分以外の生徒がまるでモノクロの映画の映像様に存在自体が遠く感じていた。クラスの扉を開けると映画の世界は普段の雰囲気に戻っていた。
 ホッと安堵の息を吐くと自分の席へと向かい席に座ろうとした時、クラスで1番仲の良い太田衣子が挨拶と共に飛んできた。
 「はよ~。朝奈~。あのさ~昨日ーの夜ぅ~、朝奈何処に居た~?」
 机の前に両腕を着き見上げるような姿勢で朝奈を見る。語尾を延ばす様に甘ったるい声で話しかける友人の質問を不思議に思った。
 「なんで?」
 するりと出た言葉だった。少し身を乗り出す様な格好で衣子の問に質問で答える。
 「え~。昨日ーねぇ~、8時頃まで~学校に~残ってたのぉ~。そしたら~、朝奈らしき人、見かけてぇ~。」
 「えっ、私?」
 驚くのは当然だった。昨日は友人とカラオケに行った後、そのまま家に帰ったのだから・・・・。
 「そぉ~。でもー朝奈、友恵達と帰ったでしょ~。だからぁ~、不思議に思ってぇ~・・・・」
 衣子の話はそれ以上耳には届かなかった。治まっていたはずの心臓が又大きく鼓動を始めた。

(一体・・・誰なの・・・・)






 秋の色が濃くなり朝夕だけでなく昼間ふく風も冬の香りが漂う中、朝奈はノイローゼ気味になってきていた。どんなときにでも精神を研ぎ澄ませ、休んでいる暇を与えない・・・。
クラスで席に着いていても誰とも話そうとせず静かに座っているだけだった。
 時々衣子などが話しかけるが自分の殻を破ろうとはしなかった。
 どうしたのかと問いただしてみても何も言わず涙目になりながらジッと机の上を見ているだけだった。
 衣子が何週間か前に見たと言う『もう一人の朝奈』らしき人物はあれ以来、頻繁に現れるようになった。
 その人物は直接朝奈の前に姿を見せるのではなく、友人、先生などの前でまるで自分の様な振る舞いをしているらしい。
 周囲の人も朝奈の別人がいるとは思わず、彼女を朝奈本人として扱う。友人同士の間で約束が勝手に反故されていたり、会話がかみ合わなくなってきていた。そのせいで朝奈の頭は錯乱状態まで陥っていた。
 以来『もう一人の自分』の存在を考えると怖くて何も出来なくなってしまった。
(一体・・誰が、何の為に・・・こんなことをしてるの?・・・)
 次第に朝奈は学校にも行けなくなり、部屋に閉じこもる様になった。

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第1回

                         

                         1

「おめでとうございます。妊娠3ヶ月ですね。」
 夏の暑い日、蝉の声がけたたましく響き、日射しのシャワーが木々の間から降っている。
多くの樹に囲まれた病院は太陽の光が反射して白い壁が消えて見える。日射しが窓を透して暖かい光となって差し込んでくる。

 その部屋で懐妊の報告を受けた安藤夏美は感動で涙を一筋こぼした。夏美は結婚して約15年、子供に恵まれず今回、薬を使っての妊娠だった。
 もともと強くない身体は細く、肩を過ぎた黒い髪を一つでまとめている。本当は自然妊娠を望んだのだが、これ以上歳を重ねると心身共に難しく為るので、40才になる前に決意したのだった。

 排卵誘発剤によりお腹の中には2つの卵子が同時に受精をしたのであった。その後順調に経過している様に思われた。が、6ヶ月を過ぎる頃突然一人の方の心音か聞こえなくなり、エコーでは、存在の陰すらも映らなくなっていた。
 双子には稀に取り込まれてしまうことが有るらしく、主治医の八巻は初めての事に慌てながらも、もう一人の無事を確認し、夏美に説明を始めた。
 夏美も聞いた時は何が起こったのか分からなかったが、あと数ヶ月で産まれてくる子供の為に今は悲しみを堪えたのだった。

 そしてのち、夏美は女の子を出産した。それと同時に消えてしまったもう一人の子供の小さな指らしきものも一緒に産まれたのであった。
 無事産まれた子供に名前は『朝奈』と名付けられ、二人は1週間後退院をした。だが

 その時迎えてくれるはずの夏美の 夫は、産まれた小さな指と共に姿を消していたのだった。

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プロローグ

「あなたがこうしていられるのはお姉さんのおかげなのよ」

そう言われて育った私は、同じ母体に産まれながらも消えてしまった姉を、

いつでも自分の中で一緒に生きているんだって思ってた。

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初めました。

6年前に書いて放置してあった、文章がでてきたので
ブログでつづきを書きながら完成したらいいな~。なブログです。

あくまで自分の妄想100%で書いていますので、内容の信憑性はありません。

テーマは「自分の前に自分が現れたら・・・」

ホラー?・・ミステリー。
微妙なジャンルですが、おつきあいいただけたら幸いです。

小説①はまだ無題です。
完成したら、付けたいな~とは思います・・・・
何かいいのないかな~。

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