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2006年6月24日 (土曜日)

第7回(2)

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              7-2

 いつものコースをパタパタと音を立てて歩いている。生徒には普段と変わらない様子に見えるだろうが、麻十城は浮き足だった様子で、廊下をほんの少しだけ、早く歩いていた。
 と、特別教室がある棟までくると、ひっそりとした空気が流れていた。自分の歩く足音が異様に響き静けさを強調させている。
 普段なら其処には人がいる様子もないので、さっと通り過ぎていたが、今日はいつもと様子が違った。化学室の前にくると、隣の部屋の中から、男女の話し声が聞こえた。 下校時刻が来ていることを告げようと、その扉を開けようと手をドアにかけた時、2人の会話に引っかかった。
「・・・クローンだったと・・・でも・・・」
「それは、・・・・」
良く聞こえなかったが確かに『クローン』と言う言葉が聞こえた。
いつもなら、そんなに気にしないだろうが、さっきまで、例のものを見ていた麻十城には簡単には流せない言葉だった。
 ガラっとドアを開けると、学生服の男子生徒が最初に目に入った。自分が開けたドアに驚いてこっちを振り返って見ている。
「あ・・・」
下校時刻だぞ、などと普通に話かければ良いのだろうが、なぜ言葉が出てこなかった。「麻十城・・・先生・・?」
書棚で、影になっていて入り口からは確認出来なかったが女子生徒の声が奥から聞こえた。
「あ、お前達、下校時間だぞ・・・」
繕うように、言っては見たものの、上手く文章になっていない。そんな事が言いたいんじゃない、さっきの話は何なのかが聞きたかった。麻十城は逸る気持ちを自制し、部屋の中へ入っていった。
「あ・・・」
何歩が進と先程の声の持ち主の姿がモノのかげから現れる、そして、麻十城が見た者は、
「君・・・さっきの・・・」


 安藤朝奈は、きょとんとした顔で、麻十城の方を見ていた。
「あ・・・、これっ・・・」
慌ててポケットからFDを出す、だが、朝奈は不思議そうな表情で麻十城の様子を見ていた。
「なに?これ?先生」
そう言って、話を繋げてくれたのは、朝奈の向かいに座っていた、本条と言う生徒だった。
麻十城は本条の事は知っていた。同じ気質を持つ者同士の見えない糸があるのかどうかはわからないが、前に2,3言話をしたときに何となく同じ空気を感じたので、覚えていた。
その本条がさっきの女子生徒と話している、しかもその内容は、FDの中身と関係があるような話をだ・・・。 麻十城は一瞬間をおいて、本条に視線をむけた。
「これ、なんだけど。さっき彼女が保健室に忘れていったんだよ。」
朝奈の方を指さしながら、そう説明した。
「え・・・?」
言われた朝奈は全く知らない事の用な顔でこっちを見ている。その様子を見た本条は、麻十城の手にあったFDをさっと抜き取った。
「・・・・」
本条はFDのラベルを見ると、動きを止めた。
「どうした?彼女のじゃ、ないのか?」
麻十城は、不思議そうに本条に問いかけたが、彼からの応答はなく目の前の朝奈を見ていた。
 本条の目の前には一枚のFDがあった。黒い何処にでも売っているモノだったが、そのラベルに書かれてある言葉が問題だった。そこには『contraindication』と一言、書かれてある。
 その言葉は今自分たちが関わっていることに大きな関係をもつ言葉だ。本条はジッと視線を固めたあと朝奈の方を見た。
 もし、これがあのFDのコピーだとしたら、その元を持っているのは朝奈である。「おい、あれどうした?」
目の前に座っていた朝奈に、FDを手渡しながら問いかける。その、FDを受け取った彼女も本条と同じ反応をしたあと青ざめた顔をして、鞄からもう一枚のFDをだした。「これ、誰かに貸したり、一時期でも無くした事あるか?」
鞄から出されたFDと保健医の麻十城が持ってきたFDを机の上に並べると朝奈に続けて質問した。
「ううん、ずっと持ってた・・・。」
その顔に嘘の色はみあたらない。本条は椅子をキュッとならして、振り返るとFDを持ってきた麻十城の方を見た。
「なあ、せんせ。この中身見た?」
本条を見る視線は、まるで犯罪者を見るような視線をしていた。その視線に慌てたのか、本条は少し狼狽えた様子をした。
「別に攻めてるわけじゃない。」
そう、フォローには聞こえずらい言葉を投げかかると、麻十城は少し落ち着いたのか、コクリとうなずいた。
「で、中身は・・・・」
「クローン体の研究報告」
そう言った麻十城の目は先程の狼狽した様子は全くなく本条と2人で、朝奈の入れない空気を作っていた。
「これは、なんなんだ?」
そう質問された本条は、またも、答える様子を見せず再度、朝奈の方を見た。
「・・・本条・・くん?」
不安そうに見つめる朝奈をよそに本条は2枚のFDをジッと見ていた。
「○○大学・・・理工学部卒業・・・」
ボソボソっと本条は言うと、様子を伺っていた麻十城の方をみて
「あんた・・・・」
「ああ」
麻十城にはなにが言いたかったのかが解ったらしい。ただ、意外だったのが麻十城の情報を本条は知っていたと言うことだ。だが、そんなことは今はどうでも良いことだった。
「安藤!・・・麻十城に話してもいいか?」
と、了解を伺った。
 朝奈は、訳が分からなかったが、今は自分よりも本条の方が頼りになると思ったのか、二つ返事で了解した。

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