« 第8回(2) | トップページ | 第9回(2) »

2006年6月26日 (月曜日)

第9回(1)

にほんブログ村 小説ブログへ

        9-1

 冷たい空気が白い霧となって開いた扉から洩れている。
その後い続いて、真田恭子が出てきた。恭子は薄い手袋を引っ張るようにはずすと、保留音のなった電話の受話器を取った。
電話の相手は大学時代の同級生の麻十城からだった。同じ大学ではあったが、学部が違うためほとんど会話することはなかった。たまたま同じ友人を通しての知り合い程度だったので、大学卒業後はきっと会うことは無いだろうと思っていた。
その人物から、連絡があったのは不可解な仕事に填っている時だった。

 恭子は卒業後、監察医という仕事に就いた。人の不可解な死の謎を少しでも解けたら・・・と思っていた。本心を言えば、ドラマとかに憧れていた面もあったようだが・・。
 就任して3ヶ月、お話の様な事件に巡り会うこともなく、事故遺体や自殺の遺体を解剖することに慣れていった。
だが、ある日担当の管轄から、回された遺体は『謎だらけ』のものであった。

 遺体の名前は安藤修二、遺体で発見されるまで行方不明になっていたらしい。当初安藤の死因は心筋梗塞によるものだと判断され遺族の元へと返されたのだった。
だが、恭子が書類の整理をしている時に不可解なモノを発見したのだった。
 それは腹部に小さな指が埋まっている影を映したレントゲンだった。見つけた当初はなにか内臓が絡んでしまったものだともおもったのだが、それはどう見ても人間の指にしか見えなかった。
だが、そんなものがそんな場所に入ることは、人為的な事をしない限りあり得ない。それなのに安藤の遺体には埋め込んだ痕の様なモノもなかった。恭子はその不可解な謎を解く為に上司を説得し、返された遺体を再度引き揚げる事にした。
 そうして、安藤の不可解な謎は恭子の仕事となった。だが、何度解剖を続けた所で真新しい発見をすることはなかった。

 遺体を目の前にして途方に暮れ始めていたとき、恭子の元に麻十城からの連絡が入った。
恭子は受話器を左手に持つと、近くにあった椅子に座った。
「もしもし、真田です。」
そう話しかけながら右手では白衣のポケットに入っている小さな瓶を取り出した。
「あ~、はい『指』ね・・・・。」
瓶を机の上に置くと人差し指で斜めにしてみた。
瓶の中にはホルマリンに浸かった指が浮いていた。
それはもちろん安藤の中から採取されたものであった。
「指のね~DNA調べたわよ。」
恭子はもともとおしとやかとは言えないタイプの人間だったので昔の同級生の、麻十城と話すときも上司と話すときもどこかつっけんどんな言い方に聞こえる。
「うん、そう。で、あんたから預かった方のも調べてみた。」
瓶をつかんでトンっと音を立てながら置き直すと、少し間をおいて声を潜めた。
「あんた、あれどこで手に入れたの?・・・うん、そう」
辺りを見渡して人がいないのを確認した。
「親、兄弟である確率99.9%・・・一体あんたは何を知って るの?」
 今直面している問題のヒントを麻十城が握っている。安藤の体の中から摘出されたモノを酷似したDNAをもつ人間がいる。
 恭子は身震いをした。それは恐怖などではなくどちらかといえば歓喜に近かった。

|

« 第8回(2) | トップページ | 第9回(2) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/120508/2393604

この記事へのトラックバック一覧です: 第9回(1):

« 第8回(2) | トップページ | 第9回(2) »