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2006年6月21日 (水曜日)

第1回

                         

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「おめでとうございます。妊娠3ヶ月ですね。」
 夏の暑い日、蝉の声がけたたましく響き、日射しのシャワーが木々の間から降っている。
多くの樹に囲まれた病院は太陽の光が反射して白い壁が消えて見える。日射しが窓を透して暖かい光となって差し込んでくる。

 その部屋で懐妊の報告を受けた安藤夏美は感動で涙を一筋こぼした。夏美は結婚して約15年、子供に恵まれず今回、薬を使っての妊娠だった。
 もともと強くない身体は細く、肩を過ぎた黒い髪を一つでまとめている。本当は自然妊娠を望んだのだが、これ以上歳を重ねると心身共に難しく為るので、40才になる前に決意したのだった。

 排卵誘発剤によりお腹の中には2つの卵子が同時に受精をしたのであった。その後順調に経過している様に思われた。が、6ヶ月を過ぎる頃突然一人の方の心音か聞こえなくなり、エコーでは、存在の陰すらも映らなくなっていた。
 双子には稀に取り込まれてしまうことが有るらしく、主治医の八巻は初めての事に慌てながらも、もう一人の無事を確認し、夏美に説明を始めた。
 夏美も聞いた時は何が起こったのか分からなかったが、あと数ヶ月で産まれてくる子供の為に今は悲しみを堪えたのだった。

 そしてのち、夏美は女の子を出産した。それと同時に消えてしまったもう一人の子供の小さな指らしきものも一緒に産まれたのであった。
 無事産まれた子供に名前は『朝奈』と名付けられ、二人は1週間後退院をした。だが

 その時迎えてくれるはずの夏美の 夫は、産まれた小さな指と共に姿を消していたのだった。

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