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2006年6月24日 (土曜日)

第7回(1)

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                  7-1


 保健医である麻十城要は、夕方の廊下を窓の外を見ながら歩いていた。
大学を卒業して教員資格を取得したものの教職の空きはなく、その間の待ち採用として、コネで中学の保健医として就任にていた。
 待ちの間だけと言って毎日が退屈で仕方がなかった。
もともと大学では、生物学を学んでいて、本当ならあのまま大学に残り研究者としてまだまだ調べたいことが山のようにあった。
だが、それは叶わぬ夢となった。仕事も付かずに暮らしているのも体裁が悪く、こうして今をただ過ごしていた。
 きちんとした医師とカウンセラーが定期的に来るこの学校では、保健医と言うのは名ばかりで、ほとんどが学校の小間使いだ。「学校便り」の作成や、他校との交流関係の仕事など、担任を持っている先生では忙しくてやりきれない、が誰がやっても変わらない仕事が廻ってきた。
 この、放課後の見回りも毎日麻十城の仕事になっていた。見回りといっても、校舎に残る生徒に早く帰るよう注意を促すだけだ、本当の見回りは当直の先生と警備員できちんと行われている。なので、なかばいい加減に校舎を一週するだけだった。

 その日もいつものように昼間さして重要でない仕事を適当に片づけながら、保健室で仮眠をとっていた。
 天気のいい日で机の上でウトウトしているとドアがノックされてガラっと言いながら開かれた。麻十城はボーっとした頭で振り返ると、真っ青になった女生徒が今にも倒れそうな様子でたたずんでいる。
「大丈夫か!!」
麻十城はハッとして女生徒の側に駆けよった。手を差し出した次の瞬間彼女は、そのまま意識を飛ばして麻十城の腕に倒れ込んだ。
 ベットの上で、スヤスヤと寝息を立てている、女生徒の顔も見た。その顔は、目の下にくっきりとクマを残し、頬は痩けていた。彼女に何があったのだろうなどと、無責任な好奇心をもっていた。だが、特に調べるという訳でもなく、ベットの横に置いたパイプ椅子に座って寝顔をジッと見ていた。

キーンコーンカーンコーン・・・・

 2人の間にあった。意味のない静寂は授業の終わりを告げるチャイムで、壊されたのだった。麻十城はハッとして、パイプ椅子から立ち上がると、本来自分の椅子である席に戻った。
 ちょうどその時、自分を呼び出す内容の放送が流れた。職員室に行くと、またあまり重要でない仕事を任され、顔では笑顔を作ってはいたが内心、またかと少し腹を立てていた。だが、それを外に出してしってはいけない。ハァーーーっと深く息を吐くと渡された書類を片手に保健室に戻る廊下を歩いた。

 何故か、何故か麻十城はさっきの女生徒が気になっていた。廊下をパタパタと小走りで歩く。保健室に続く真っ直ぐな廊下はいつもより少しだけ長く感じた。目の前の保健室の扉が開き中から男子生徒が出てきた。
「あ、先生」
その男子生徒に声をかけられ、催促される。
「先生~、けが。見てくれない?」
麻十城はその言葉は、半分しか聞こえてなかった。ただあの女生徒だけが気がかりだった。
 保健室に入ると男子生徒を座らせて、彼女がいるベットのカーテンを少し開けて中を確認する。しかしそこにはもう女生徒の姿は無かった。起きたあと布団を直したのだろう。それまで其処に人がいたという跡は残っていなかった。
 麻十城は少しがっかりした様子で、勢い良くカーテンを閉めた。と、カツンとつま先に何かが当たった。
床には一枚のFDが落ちていた。
 男子生徒を看たあと、麻十城は鞄から、自前のノートパソコンを出すと、落ちていたFDを入れた。
「中身がわからなきゃ、返せないもんな・・・」
などと、言い訳がましい独り言を呟いている。画面は起動が終了し、FDの中身を読みとっている。と動きが止まると、パスワー ドの画面が表示された。
「・・・っ、パスワードかよ・・・」
諦めようと思ったが、何故か異様にその中身が気になっていた。さっきの女生徒のモノだとしたら余計に興味がある。
思いつく言 葉を入れて見たが、パスワードは解除されない。興味はあるものの何度も同じ画面をみて麻十城も飽きてきたので、この辺で終わりにしようと思い、FDをパソコンから抜いた。
 と、さっきは気づかなかったが、FDのインデックスラベルに文字が書かれていた。無理だとは思ったが、試しにその文字を打ち込んでみた。

 パソコンのハードが音をたて動きFDを読みとる作業をしている。すると画面はさっきまでとは違うモノを表示したのだった。
「んだよ・・・これじゃあ、パスワードの意味ないじゃんか・・」
などと、ケチを付けてはいたが、麻十城の表情は嬉しそうだった。しかし、その表情はすぐに変わることになった。

 画面に出されていく内容をみて麻十城は唖然としていた。出されたものは、大学時代に研究し、進めていた遺伝子研究の報告書だった。だが、それは自分がやっていたことより遥かに進んだ内容だった。これを学会に提出してみたら、世間は驚くに違いない。時間を忘れて内容を確認するように読んでいく。

 気づくと窓の外はもう、赤く染まっていた。
「あ・・・・見回りの時間か・・・」
FDの内容は気になったが、一応仕事もしなくては行けないと思いパソコンから、FDを抜くと白衣のポケットに押し込んだ。持ち歩く事にしたのは、このすごい研究結果を他人に見せてはならないと思ったからだ。
(まあ、一般人が見たところで理解出来る様な内容では、ないが・・・)

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