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2006年6月25日 (日曜日)

第8回(2)

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               8-2

 夕食を食べながら交わす会話は、たわいの無い内容だった。
母親の方も最近学校に行くようになった朝奈に安心していたのかもしれない。
本当の事はしらないで・・・。
 朝奈は本条と知り合ってから、学校に行くようになっていた。だが、朝いつもの様に制服をきて家を出るが直接学校に向かうことはなかった。
日中人混みの中をうろうろして、放課後の時間に なると下校している生徒に紛れて学校へ向かった。
「1人で居るのは怖いの・・・でも、クラスのみんなに会うのはもっと怖い・・・。」
前に朝奈の友人である、衣子にどうしているのか聞かれ質問した時そう答えていた。
「お母さん・・・」
 ご飯の半分へったお茶碗を机の上に置きながら、ぼそりと呟く。
箸は皿の上のおかずを小さく切っていた。がそれを口に運ぶ様子は無く小さく、小さくなっていく。
「朝奈、食べないならいたずらしないの!一体どうしたの?」
 様子のおかしい娘に気づき言葉は戒めの内容だったが、優しい表情だった。
朝奈の方は手を止めはしたが、俯いたままだった。
 なぜならこの今の雰囲気を壊しかねない質問をしようとしているからだ。

『代理母の存在』

 そのことを調べるにはまず、母親に聞かなくては進まない。しかし、それにはそうとうなリスクが考えられる。
朝奈は偽りでも、今の生活を壊すのが怖かった。
母親が前に見た時の様にノイローゼになってしまったらどうしよう・・・。などと、悪い事ばかり想像してしまう。
 考えれば考えるほど悪い想像ばかり浮かんでくる。机の上に置いた手をギュッと握ると、伏せていた顔を上げた。
「お母さん」
静かな空気が一瞬広がった。



「ごめんなさい。」
受話器を肩に挟むと開いた手をダラリと下ろすと、ジュータンに 落ちていた髪の毛に気付き拾い上げた。
「だって・・・・」
受話器の相手に文句をいわれたのか言い訳の様に言葉を吐いた。
 結局のところ、母親を問いただすことは出来なかった。覚悟決めたつもりだったが、目の前に座っている母親の心配そうな笑顔を砕くことが出来なかった。
なんでもないと笑ってごまかしたのであった。
「・・・親戚の人あたってみるから・・・・」
そう、相手に伝え何度かうなずいたあと、朝奈は静かに電話を置いた。
受話器に手を置いたまま動かずに一点を見ていた。だがその視線の先にはなにもなかった。
 そうして少し経った後、もう寝てしまった母を起こさない様に静かに部屋に戻った。



 本条は受話器を置いてすぐに鞄から手帳をだした。数枚めくると、書いてもらったばかりの麻十城の連絡先が書かれてある。
その電話番号を確認するかの様に指でたどるとダイアルを押した。

trrrrrr・・・・と、呼び出し音が聞こえている。
「親戚ねぇ・・・」
と独り言を呟いた。
 先程、少し涙声で電話をかけてきた朝奈は今日麻十城から聞いた『代理母』に思い当たる人物を朝奈の母親に尋ねて欲しいという申し出に答えられなかったという誤りの電話だった。
 彼女の気持ちも解る。だが、そんな躊躇しては何にも解決出来ないのではないかと言う少し苛立った口調で彼女に問いつめてしまった。
「もとは、彼女自身のことなんだし・・・」
呟くと同時に呼び出し音が途絶え、受話器の向こうから、声がした。


 朝奈は父親の葬式の回向帳を開いていた。
参列してくれた人に何か手がかりを持っている人がいるかもしれないと考えたのだ。
それには本来なら、かなりな参列者の名前が書かれるものだが、失踪していた事もあって、数十名の人数しか書かれていなかった。
 父親の昔の上司と、数年来の友人、母親の方の知り合いあとは 親戚くらいだった。
そうして、しばらくして帳面を閉じると、鞄に閉まった。
その後布団に潜った。ベットの上で横になりながら天井を見ていると何も無いはずの天井なのに何故か気になって眠れなかった。
その感覚は恐怖というものではなく、静寂の真ん中に落とされた様な不思議な感覚だった。朝奈はその感覚から逃れる為に、力一 杯目を閉じて強制的に眠りの世界は入っていった。

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