« 第7回(3) | トップページ | 第8回(2) »

2006年6月25日 (日曜日)

第8回(1)

にほんブログ村 小説ブログへ

                  8-1


 薄暗い部屋の扉を開けると、廊下の光が部屋の中へと細く入り込んだ。
自分の体を荷物の様にベットの上へ倒した。
まだ、母親は帰ってきていなかった。朝奈は手を伸ばすと枕を引き寄せた。
「・・・・・」
ギュと顔を押しつける。苦しくなって、顔だけを横に動かした。その表情は、どこか遠くを見ている様だった。
「母親・・・・」
朝奈は少し前に聞いた、麻十城の言葉を思い出していた。


「でもセンセ、子宮を同じ構造の羊水と条件を満たせば人間の体を使わなくても平気なんじゃないか?」
大学でクローンについて研究をしていたと言う麻十城が加わって話は進み始めていた。もちろん朝奈は聞いていても理解は出来なかった。
だが、自分ではどうしていいのか解らない。
そして麻十城は『真夜』にも会っているという。唯一の理解者と思っていた本条が麻十城にも話したいと言ったので訳が分からないまま承諾した。
確かにその行為自体は間違ってはいなかった。今まで足踏みをしていた状態から、一歩を歩み始めたのだ。
だが、理解しえない分野の話に付いていけない朝奈はこのままどうなっていってしまうのか不安だった。
 麻十城の話に付いていっている本条が質問を投げかけた。
「確かに考えられることも出来る。だたしそれにはまだ不足してるんだよ、知識が・・・それに『真夜』を作った安藤修二は急いでいた。確かな理由は解らないが、早く『真夜』を完成させたかったらしい、だから可能性の確かなこの方法しか考えられない。」
麻十城の手に持っているボールペンは白い紙の上の「代理母」という文字を何度もなぞっている。
「急いでいた・・・ってのは?」
「双子が欲しかったんだろう・・・?」
目線は本条の方なのに、手は朝奈の方を指した。自分を指摘されて朝奈は体を震わしたが、2人の視界の中には入っていなかった。
「じゃあ・・・・」
「そう、まず最初の手がかりとしては、その母親を捜すことだ。」
朝奈をよそに、2人は話を進めている、その様子はとても楽しそうに見えた。



 玄関が開く音がして、朝奈は体を起こした。
母親はあれから大分たった事もあって、対外的には大分落ち着いて見えた。
 仕事もどうにか復帰し、時々笑顔を見ることもできた。ただ朝奈には分かっていた。本当はまだ、大きな歪みを残していることを。
その為なるべく父に関する事には触れず、内容のない話をして過ごしていた。
 本条は母親になにか手がかりが無いか聞いて欲しいと言ってきていた。だが、朝奈に出来なかった。
 いま、この状態を崩してしまったら、きっと母親はおかしくなっ てしまうだろう、それだけは避けなければいけない。
自分一人で抱え込んでいる事にため息を付きながら、笑顔を作って階段を下りた。
「ただいま。朝奈」
階段を下りてくる娘に気付いた母親は微笑んで、話しかける。
それに答えるように朝奈も微笑んで母親を迎えた。

|

« 第7回(3) | トップページ | 第8回(2) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/120508/2373202

この記事へのトラックバック一覧です: 第8回(1):

« 第7回(3) | トップページ | 第8回(2) »