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2006年6月22日 (木曜日)

第5回

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 キーボードを叩く音が聞こえた。
化学室の隣にある狭い部屋に朝奈と本条春人が一台のパソコンの前に向かっていた。
 本条は衣子から紹介してもらった友人で今回手助けしてもらう事になっていた。身長だけが異様に高く体格があまり良くないせいか、ひょろ長い棒の様な印象だ。
前髪をボサボサと降ろし、枠の無いメガネを鼻に引っかけていた。
お世辞にもきれいとは言えない部屋は、机の上は本が積み重なり、よく見れば隅の方に大きな綿埃まである。
 その部屋の中には二人の他に人の様子は無く元々口数の少ない本条と二人で沈黙が続いていた。
目の前のパソコンには例のフロッピーが入っている。だが画面はフロッピーを開くためのパスワードの入力の位置で、止まっていた。
 父親の仕組んだパスワードが解けずにいたのである。思い当たる言葉を幾度となく入力してみるが、エラーメッセージが表示されるだけだった。
 もちろん「真夜」っという言葉も試してみたが、動く気配はなかった。放課後に入る前に買った缶コーヒーのプルトップを開け二人は休憩を取ることに決めた。
 もう時間が経っている所為かホットのはずのコーヒーはぬるまゆくなっていた。
向かい合って座ってはいるが、会話はなく、沈黙に耐えかねた朝奈はトイレに立った。
もう大分日が落ちていた。廊下の電灯がついているが、窓から夜の闇を感じさせていた。

校舎の遠くで運動部の人達か誰かの声が聞こえる。
それとは反対にシンっとしたトイレの中に入ると、ヒンヤリとした空気に包まれた。
゛嫌な感じ″虫の知らせと言うものなのだろうか、根拠もなくただそう思えた。
急いで準備室に戻ると本条がパソコンの前に座っていた。画面に向かってマウスを何度かクリックしていた。
「開いたの・・・?」
息を弾ませて近寄りながら、話しかける。
「そう。」
ドクッと心臓が高鳴った。
「パスワードはどうしたの?」
心臓の位置で手を強く握った。
キーボードを打つ手を止めて振り返った本条は不思議そうな顔をした。
「何を言ってるんだい?君が言ったんじゃないか。」
そう言って回転いすをキュと鳴らすとまた画面に向かった。

(・・・・真夜・・・・・)

 鳥肌と共に冷たい汗を感じて身震いをした。寒いはずなのに身体のなかは熱く思える、血が逆流している様だった。身体がカタカタと小さく震えていた。
その様子に気づいた本条はもう一度振り返った。目の前には、顔が真っ青になった朝奈が立ちつくしていた。
「・・・安藤?」
 その様子はとても尋常では無かった。目は本条の方向を向いてはいるが、視線は何処を見ているのか解らない。真っ青になって立ちつくす朝奈の肩をつかむと軽く頬を叩いた。
たどたどしい視線が本条に向けられる。
「一体どうしたんだ?」
力強く言うと、意識がハッキリしたのか朝奈は自分の意志で椅子に座った。

 本条の言葉で、自分が何をしているのかに気づいた朝奈は不思議そうな心配そうな表情をした彼の方を見た。
色々なことが頭の中を駆けめぐったが、考えた末協力してもらってることも有るので全ての事を本条に話すことにした。

 時計の短針が一周廻り終わった頃、本条はあっけに取られていた。聞いている最中は信じられないと言う面もちで静かに聞いていた。
 朝奈もこれが普通の人の反応だよななんて事を感じながらそれでも真剣に話していた。 話し終わっても反応のない本条に対して、ため息をつこうとしたとき、彼は表情を余り変える訳ではなく薄い唇の端を上げ何かを企んでいる楽しそうな子供の様に笑った。

朝奈は少し怖くなったがそれと同時に「真夜」をお追いかける仲間が出来たことに喜んでいた。


フロッピーを開けるパスワードは
 「contraindication」
まだ二人は言葉の意味も解っていなかった。

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