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2007年2月17日 (土曜日)

第10回(1)

                     10-1

 水を撒かれたアスファルトの道路は、すぐには乾かずに黒色を濃くしていた。
恭子は少し靴を気にしながら、なるべく水のたまっていないところを選んで歩いていた。

 その後ろを歩く朝奈はそんなことはあまり気にしないで恭子の後についていった。
「で、この辺り?」
細かい道の住宅街は1本違ったら、地番が違う。
それに重ねて、似たような家が並んでいて、住所だけで来た朝奈達は少し道に迷っていた。

 地番が書かれてある電柱を見つけると、駆け寄って、その辺りを探してみるが、表札を出していない家もあって目的の家を探すのは少し、苦労していた。
「も~~~、来たことないなんてさ~~。親戚でしょ一応。」
さっきから30分近く同じ場所をうろうろして、加えてお気に入りの靴が汚れてしまった事もあって、イライラした気分を隠さずに朝奈にぶつけていた。
「ご・ごめんなさい・・・」
「誤らなくてもいいから、探してよ!」
「・・・・・・」
恭子のきつい言い方にビクビク怯えながら、朝奈は辺りをもう一度探した。

 ようやく見つけた、玉田家の表札に書かれたドアフォーンを鳴らして中から出てきたの朝奈の母親の姉の智恵子であった。
智恵子は目の前にいる、突然訪ねて来た朝奈と、知らない女性に少し驚いたが、すぐに笑顔を作って、朝奈達を家の中へ通した。

 智恵子が持ってきた、紅茶とクッキーを食べながら、リビングのソファーで席を外した智恵子が戻るのを待っていた。
朝奈の母の姉である智恵子は玉田という人と結婚したが、早くに夫を亡くし以降、1人でこの家に暮らしていた。
子供も居なかったので一戸建ての広い家に1人で住んでいた。部屋は使われている部屋だけ掃除されているらしい、
雨戸も閉め切られた部屋も有り全体的に淀んだ空気が貯まっていた。

 しばらくして、朝奈達に頼まれたアルバムを両手に抱え智恵子がリビングに戻ってきた。
大きい赤いアルバムを2冊テーブルの上に置くと、朝奈達の向かいに腰を下ろした。
「これが、私たち姉妹の子供時代の写真よ。」
ページをめくりながら、懐かしい顔で話を始めた。
「でも、突然どうしたの?お母さんの昔の写真が見たいなんて。」
「・・・あ・・・はい、あの・・・。」
「そうそう、これ見て~。私と貴方のお母さんは良く似てるって言われてたのよ。」
朝奈の返事を待とうとはせずに智恵子はアルバムを捲りながら独り言のように話している。
朝奈達は相づちを打つだけだった。

「あの人、少し錯乱ぎみなのかもね~」
続けられていた智恵子の1人話をお茶をお代わりを要求することで、中断させ退席させた恭子はクッキーを口のなかに放り込むと食べながらそう言った。
「?」
解らないと言うように朝奈は恭子の方を見た。
それに対して恭子も朝奈の方を向くと口に入っていたクッキーを飲み込んだ。
「精神がなにかしらの理由でおかしくなってきてるのよ。まあ、旦那さんが死んでからこの広い部屋で一人で暮らしてたら・・
仕事もしてない様だしね・・・変になるのも当然かな・・。」
「どうして?この家に入り浸りって・・・」
「今日、平日でしょ。突然連絡もなしに訪ねて来て家にいるって事じたいがね。」
恭子はクスッと笑うと違う種類のクッキーに手を延ばした。

 朝奈がワンテンポ遅れて意味を理解した頃、智恵子が戻ってきたのでとっさに顔を伏せてしまった。
「どうしたの?朝奈ちゃん。」
「いえ・・なんでもないです。」
「そう?」
智恵子はそう言いながらおかわりの紅茶を出した。
今度の香りはさっきとは違って、広がるような香りだった。なんの種類なんだろうなんて事を思いながら一口コクンと飲み込んだ。

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