2007年2月28日 (水曜日)

第10回(2)

                        10-2

  何から話せばいいのか分からなかったので朝奈は智恵子と目を合わせられなかった。
チラチラと隣で平然としている恭子を横目で見ていた。
それに気付いているのかいないのか、恭子はただクッキーを食べていた。

 いくらか時間が流れた後、アルバムの話から話を変更したのは智恵子の方だった。
「あの・・あなたは、朝奈ちゃんのお友達?」
 朝奈とは歳の違う恭子に気付いたのはもう来てから1時間は経っていた。
一番初めに問われてもよかった質問をいまさらながら・・と思いながらも、恭子はにっこり笑って、答えた。
「はい。朝奈さんの学校で保健医をしています。」
「あ、先生なんですか。」
「ええ、実はですね、最近朝奈さん、なにか悩み事があるらしくて、相談に乗ってるんですよ。」
微笑みながらも、真剣な面もちで話す恭子のとなりで朝奈はどんどん青ざめていった。
「まあ・・・朝奈ちゃん、なにがあったの?」
「・・・・・・」
 恭子が勝手に進めた話に反応できなかった朝奈は、顔を伏せて黙り込むしかなかった。
が、それは智恵子に恭子の罠にはまる手助けをしたことになった。

 黙り込んでしまった朝奈の肩に手を置くと、さも朝奈が言えない事を代弁するかの様に話を進めた。
「最近、朝奈さんのお父様がお亡くなりになられたそうで・・。」
「ええ、お義兄さん。突然姿を見せないとおもったら、あんな事になってしまって・・・。」
「朝奈さん、お父様の遺品を整理していたんですよ、そうしたらその中に大切そうに、一枚写真がしまってあったんです。」
 詰まることなく、本当の事のように話をする、恭子の顔を朝奈は見たかった・・が、肩に置かれた手は、『そのままでいなさい』と言っていた。

「その写真、朝奈さんの子供時代の写真だったんですけどね。裏には『真夜』って書いてあったんですよ。」
手の置かれた肩が大きく震えた。
膝の上にあった手を硬く握りしめて、震えるの押さえていた。だが、がくがくとしたふるえは小さくはなっても、治まることはなかった。
「どうみても、写真は朝奈さんなんですよ。なのに違う名前・・。
で、この名前になにか心当たりが無いかと思って本日お伺いしたんですよ。ご存じですか?『真夜』と言う名前・・・・。」

 震えていたのは朝奈だけではなかった。ふと智恵子の方をみると、目を見開いたまま小さく肩を震わしていた。
「どうしました?大丈夫ですか?」
「あ、ええ・・ええ。」
大きく唾を飲み込んで、震えを押さえようとしていた。
智恵子は手をさすりながら、目線をあさっての方に飛ばしていた。

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2007年2月17日 (土曜日)

第10回(1)

                     10-1

 水を撒かれたアスファルトの道路は、すぐには乾かずに黒色を濃くしていた。
恭子は少し靴を気にしながら、なるべく水のたまっていないところを選んで歩いていた。

 その後ろを歩く朝奈はそんなことはあまり気にしないで恭子の後についていった。
「で、この辺り?」
細かい道の住宅街は1本違ったら、地番が違う。
それに重ねて、似たような家が並んでいて、住所だけで来た朝奈達は少し道に迷っていた。

 地番が書かれてある電柱を見つけると、駆け寄って、その辺りを探してみるが、表札を出していない家もあって目的の家を探すのは少し、苦労していた。
「も~~~、来たことないなんてさ~~。親戚でしょ一応。」
さっきから30分近く同じ場所をうろうろして、加えてお気に入りの靴が汚れてしまった事もあって、イライラした気分を隠さずに朝奈にぶつけていた。
「ご・ごめんなさい・・・」
「誤らなくてもいいから、探してよ!」
「・・・・・・」
恭子のきつい言い方にビクビク怯えながら、朝奈は辺りをもう一度探した。

 ようやく見つけた、玉田家の表札に書かれたドアフォーンを鳴らして中から出てきたの朝奈の母親の姉の智恵子であった。
智恵子は目の前にいる、突然訪ねて来た朝奈と、知らない女性に少し驚いたが、すぐに笑顔を作って、朝奈達を家の中へ通した。

 智恵子が持ってきた、紅茶とクッキーを食べながら、リビングのソファーで席を外した智恵子が戻るのを待っていた。
朝奈の母の姉である智恵子は玉田という人と結婚したが、早くに夫を亡くし以降、1人でこの家に暮らしていた。
子供も居なかったので一戸建ての広い家に1人で住んでいた。部屋は使われている部屋だけ掃除されているらしい、
雨戸も閉め切られた部屋も有り全体的に淀んだ空気が貯まっていた。

 しばらくして、朝奈達に頼まれたアルバムを両手に抱え智恵子がリビングに戻ってきた。
大きい赤いアルバムを2冊テーブルの上に置くと、朝奈達の向かいに腰を下ろした。
「これが、私たち姉妹の子供時代の写真よ。」
ページをめくりながら、懐かしい顔で話を始めた。
「でも、突然どうしたの?お母さんの昔の写真が見たいなんて。」
「・・・あ・・・はい、あの・・・。」
「そうそう、これ見て~。私と貴方のお母さんは良く似てるって言われてたのよ。」
朝奈の返事を待とうとはせずに智恵子はアルバムを捲りながら独り言のように話している。
朝奈達は相づちを打つだけだった。

「あの人、少し錯乱ぎみなのかもね~」
続けられていた智恵子の1人話をお茶をお代わりを要求することで、中断させ退席させた恭子はクッキーを口のなかに放り込むと食べながらそう言った。
「?」
解らないと言うように朝奈は恭子の方を見た。
それに対して恭子も朝奈の方を向くと口に入っていたクッキーを飲み込んだ。
「精神がなにかしらの理由でおかしくなってきてるのよ。まあ、旦那さんが死んでからこの広い部屋で一人で暮らしてたら・・
仕事もしてない様だしね・・・変になるのも当然かな・・。」
「どうして?この家に入り浸りって・・・」
「今日、平日でしょ。突然連絡もなしに訪ねて来て家にいるって事じたいがね。」
恭子はクスッと笑うと違う種類のクッキーに手を延ばした。

 朝奈がワンテンポ遅れて意味を理解した頃、智恵子が戻ってきたのでとっさに顔を伏せてしまった。
「どうしたの?朝奈ちゃん。」
「いえ・・なんでもないです。」
「そう?」
智恵子はそう言いながらおかわりの紅茶を出した。
今度の香りはさっきとは違って、広がるような香りだった。なんの種類なんだろうなんて事を思いながら一口コクンと飲み込んだ。

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2007年2月16日 (金曜日)

第9回(7)

                     9-7

 窓の外はもう暗くなっていた。
腕時計をこっそりみると針は7時を少し進んだ所だ。

 麻十城先生が連れてきた真田恭子と言う人は朝奈にとって苦手なタイプの人間だった。
ハッキリ物事を白黒つけたがる人物は、曖昧な朝奈にとっては苦痛にも似た圧迫感を感じていた。
さっきも目が合ったが、視線がきつすぎて直視できずにすぐに目をそらしてしまった。
失礼だったかなとは思ったが本心には逆らえなかった。

「なあ安藤。真田さんにも話すべきだと思うんだけど・・・」
本条がジッと固まって動かない自分の近くに来て小さく耳打ちした。
朝奈は伏せていた顔を小さく上げると、本条を見た。

 朝奈は不安だった。それは『真夜』のことが予定外に外に漏れているということがだ・・・。
本来なら自分の範疇で片づけたいことだったが、1人ではどうすることもできない。
そこで最小限の人間で調べたかった。
人数が多くなれば多くなっただけ利点は増える事は分かってはいるが、その反面口外される恐れがあった。
ふとした時についついが、どれだけ広がるか・・・朝奈は考えると怖かった。
もしこのことが母の耳に届いたら・・・今の生活がこれ以上犯されるかもしれない。
これ以上母を壊すことはできない・・・・・。

  朝奈はじっと考えると、隣で返事を待っている本条の顔をみた。
「信用していいのかな・・・・。」
「・・・それはどうか分からないけど、進にはリスクも考えなくちゃいけないんじゃないかな。」
「そう・・・・だけど・・・」
会話が止まる。少しの間沈黙が続いた。朝奈は本条の言葉を頭の中で繰り返してみた。

゛進には少しのリスクも必要 ″

繰り返し頭のなかで木霊している。
少し踏み出す勇気が自分には必要なのかもしれない、そう思うと今までの自分はまだ何していないのではないか・・・そう思えてきた。
いつも人に頼ってばかり・・・とは思ったところで、人間すぐ自分を変えられるなら、どんなに楽かもしれない。
朝奈は手をギュッと握ると、本条の顔はみないで、頷くだけの、了解の返事をした。
「サンキュ・・。」
朝奈の精一杯の努力に気付いた本条は、優しく微笑むと、握られた手をそれより大きな掌で、軽く包んだ。
 真っ赤に染まった朝奈から、離れると、本条は麻十城と会話が途切れている事を確認をすると、恭子に説明を始めた。

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2007年2月15日 (木曜日)

第9回(6)

            9-6

渡された缶コーヒーを一口飲み込むと甘い味が口の中に広がった。
普段飲みなれている味は砂糖もミルクも入れないブラックっだったので、
ひさびさにのんだカフェオレ風味のコーヒーは恭子にとっては同じ系統の飲み物とは思えなかった。

長細い机の向こう側にはさっきから黙ったままの安藤朝奈が何もない机の上をじっと見ている。
(あの子が安藤の娘・・・・)
恭子はじっと朝奈を見た。

安藤の体内から摘出された『指』とほぼ同一の遺伝子をもつ人間・・・。

恭子は机の上で組まれた朝奈の手を確認したが朝奈の身体には不自由的なものは無かった。
(あの子はあの指の持ち主では無い・・・では一体・・・?)

 肩に麻十城の手が置かれたので恭子は自分の意識が飛んでいたことにようやく気付いた。
「あ、あぁ・・ごめんなさい。」
ハッとして話を聞いていなかった事を誤った。
麻十城はそのままもう1人の学生・・本条とまた話始めた。

「で、真田に確認してもらった結果、安藤修二から摘出されたものはほぼあいつの素なんだよ。」
「でも、どうしてそれが体の中に入ってるんだ?」
「それは分からない・・・普通なら考えられない所に有ったんだろ?」
麻十城は質問の上に質問を重ねて恭子へとバトンを渡した。
「そう、安藤修二には外科的手術後が無かった、ってことは物体を体内に入れるには口もしくは腸を通るしかない。
でもあの指があったのは、消化器系からは入れない部分、内臓と内臓の間に食い込むようにあった。
外部から入れた形跡が無いって事は産まれたときからある以外は考えられないの。」

 恭子は一気に言うとフーッと深呼吸をした。
「そして、その指は朝奈さん、貴方のDNAと酷似している。」

 下を向いていた朝奈が顔を上げたのでちょうど目が合った。
すぐに朝奈が視線を替えたことで一瞬の出来事だったが、朝奈は今にも、増してなにかに怯えている感じがした。
恭子もこれ以上朝奈に期待はできなかった。
「教えて欲しいのよ、何がどうなってるのか!」
そう叫ぶ様に言った相手は朝奈ではなく、本条と麻十城に向かってだった。

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2007年2月13日 (火曜日)

第9回(5)

              9-5

そう紹介された少しきつめの目をした恭子は、いつもは余り出すことのない笑顔を作った。
「真田恭子です。宜しくね。」
と手を差し出したが、素早い反応ができずにいた。
「あ、あの・・・」
朝奈が目を泳がせながら本条の方を見た。
その意味を読んだ本条は恭子の方ではなく麻十城に向かって質問した。
「なんのつもりだ?」
(どうして部外者を連れてきた)という裏の意味も込まれている。
「言ったろ、彼女はここいらの管轄の監察医だって・・・すなわち彼女も関係者ってことさ。」
ハッとしたのは本条の方だった。
「じゃあ・・・・」
「そーゆう事。」
そう答えたのは、不適な笑みを浮かべた恭子だった。
「ねえ、どういう事よ。」
三人の会話が理解できない朝奈は交互に顔を見た。
そして、その視線が本条と合った。
本条は視線をそっとずらすと、目を合わせることなく朝奈の疑問に答えた。
「つまり、安藤の親父の遺体を検屍したのは、真田さんって訳だ。」
「・・・・・・・。」

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2007年2月 9日 (金曜日)

第9回(4)

           

                  9-4

 昼過ぎまで降っていた雨は上がり雲の間から空が除いていた.
オレンジ色に染まった雲が下校時間を告げている。
「そろそろかな・・・。」
一日の授業を終わらした本条は教室から自分以外の人気が無くなるのをまって、化学準備室へ向かった。

 本条は誰もいない準備室にドアを開け、電気をつけると、パソコンの電源を入れてから、椅子に座った。
そうして、さっき来る途中で買った缶のウーロン茶のプルトップを開けると一口飲んだ。

何分か待っていると、準備室の扉が開き二人目のメンバーが現れた。
「よう、おはよう。」
もう夕方なのに、おはようと言ったのは、相手に対してのからかいが入っていた。
「・・・おはよう・・・」
昼間学校に来ていない朝奈は、本条の言葉に少しムッとしたが、自業自得だと思い、付き合って答えた。

 普通の高校生なら、そこでフォローがはいったり、笑いにつなげたりなど、何らかの反応が有るところだが、
二人は特別笑いもせず残りのメンバーが来るのを沈黙の空気の中待っていた。

 何も話さないまま時間が過ぎていった。ふと、気づくと、朝奈が廊下の方を見ていた。
足音が聞こえた。本条はやっと来たかと思ったが、その足音が二人分な事に気付いた。

 毎日、夕方授業が終わって1時間後、ほとんどの生徒が帰った後本条と朝奈と麻十城はこんお化学準備室に集まっていた。
まあ、毎日集まるほど、話は進んでいないのであったが、全員何となく集まるようになっていた。
そしてたいがい最後に来るのが保健医の麻十城だった。下校の見回りの最後に此処によるのが習慣になっていた。
今日もそろそろ来ても良い時間だった。だが、麻十城かと思われる足音はもう1人別の人間を連れていた。
本条と朝奈は険しい顔をしながら、準備室の入り口を見ていた。

 そして、足音はドアの前で止まると次に扉が開く音が部屋の中に響いた。
「・・・ど、どうしたんだ・・・?」
 二人の熱い視線で向かい入れられた麻十城は、一瞬部屋の中に入るのを戸惑ってしまった。
驚いて反応の無い二人を放って置いて麻十城は準備室の中へ入ってきた。そして、その後ろに付くように見たことのない女性も一緒に入ってきた。
「・・・セ、センセ・・・?」
理解できないと言ったような表情で本条は初めてみる女性が誰なのかを、言葉少なく質問した。

 麻十城はなぜこの二人がこんな様子なのかをやっと理解出来たかの様に、細かく首を前後に振ると、後ろにいた女性を自分の隣に来させた。
「俺の大学の知り合いで真田恭子さん。この地域の観察医をしてるんだ。」

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2006年6月28日 (水曜日)

第9回(3)

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               9-3

雨が上がったあとの少し水くさい空気が嫌に鼻についている。周りに茂っている木々は光を水滴で反射させて、輝いているようにみえた。
少し進ときっと昔は真っ白だったと思われる大き壁が見えてきた。朝奈はゆっくりと近づいて、入り口の前にたった。
 すこし躊躇う様に二三度彷徨いた。その様子に気付いた受付の看護婦が、中に入るように促した。
「あの・・・・・・。」
顔を伏せて蚊の鳴くような声で話しかける。
「どうしたの?」
決して若くない看護婦は慣れたように優しく聞いた。
「どこか痛いの?」
「あの・・・・八巻先生に・・・。」
「八巻医院長?にご用ね?ちょっと待ってて。」
顔を伏せたままの朝奈の対応にすこし困りながらも、看護婦は奥の部屋へと消えていった。
 朝奈は近くにあった長椅子に座ると、ホッとしたかのように、 肩の力を抜いた。

 しばらくして、さっきの看護婦が戻ってきて八巻の元に案内をした。診察室と書かれた部屋のドアを開けると、余計に消毒液の臭いがした。目の前には白いカーテンが引かれていた。その奥に人影が映っている。
「どうぞ。」
朝奈はカーテンの切れ目から部屋の中に入っていった。
 大きな窓の前に60才くらいだろうか、白衣を着た老人が座っている。その顔は皺を深く刻んでいる。
 老人・・八巻はあまり変わることのない顔で微笑むと朝奈を自分の前の椅子に座らせた。
「今日はどうしたんだい?」
朝奈はとまどうように八巻の顔を見たあと、黙り込んでしまった。その様子に少し困りながらも八巻は話を繋げた。
「・・・君は此処で産まれたんだよね。君の事は覚えてるよ。お母さんは安藤夏美さんだよね。お母さんは元気かな?」
「はい。・・・あのどうして・・・」
自分の名前も言っていないのに、自分の事を覚えていた事に感し驚いていた。
「小学校の時に一度遊びにきただろう、変わってないね。でも、顔色は悪いかな。なにかあったのかい?」
気を紛らわす様に微笑みながら話しかけてきてくれる八巻に安心して朝奈も、顔を上げた。
「君は僕が取り上げたんだよ。覚えてるかな?まあ、覚えてたら怖いか、ハハハハハ」
「はい」
冗談に笑える様になって気が大分落ち着いた朝奈は八巻に聞きたかった事を質問した。
「あの・・・」
「なんだい?」


 少し開いた窓から風が吹き込んで、入り口のカーテンを揺らしている。窓枠に当たる風の音だけが部屋の中に響いていた。
 しばらく沈黙が続いた後、先に口を開いたのは八巻の方だった。
「そう、お父さん亡くなったんだ・・・。」
「はいそれで、私と一緒に産まれて、死んでしまったという、姉の話を聞きたくて、そのころの事を知ってるのは先生しかいないんです。母には聞けないし・・・。」
目の下にくっきりクマをつくり、やつれた様子の朝奈から聞いた『真夜』の話は信じがたいものがあったが、彼女が冗談を言ってい様には見えなかった。

 八巻は深くため息を一つ吐くと、朝奈 が産まれた時の話を始めた。もともとは双子だったこと、しかし片方は成長の途中で消えてしまった事、そしてその子の指らしきものが朝奈と一緒に産まれてきたと言うこと、その指をもって、朝奈の父親が失踪してしまったという事。
 八巻は自分の知っていることを一つ一つ話していく、朝奈の方も一言一句逃さないように聞きかじるが、およそ重要なヒントとなるような答えは返って来なかった。
 看護婦の持ってきたオレンジジュースのコップは表面に水滴を作って汗をかいている。氷がカランと崩れる音を立てて動きをかえるた。
 八巻はそのジュースを勢い良く飲み干すといくらか小さくなった氷を奥の歯でボリボリと音を立てて食べると、ふと思い出した様に朝奈を見つめた。
「んじゃ、子供ン時お父さんと挨拶に来たのは君じゃなかったんだな・・・。」
「え?・・・・・。」
「さっき言ったろ。小学くらいン時遊びに来たって、お父さんの方と一緒に来たんだよ。でも、あれは君じゃなかったんだな~。」
頭をボリボリ掻くと少ない髪の毛がくちゃくちゃになった。
「父は此処に来たんですか?」
「ああ、あのときの子がこんなに大きくなりましたって・・・。」
「真夜・・・・・。」
朝奈はジッと見ていた八巻の顔から視線を外すと風が入り込んでくる窓の隙間からのぞく景色を見た。
 窓の外では濡れた緑の葉と茶色い葉が風に揺れていた。

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2006年6月27日 (火曜日)

第9回(2)

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             9-2


「99.9%ね・・・・」
(ほとんど、同一人物か・・・)
麻十城は椅子にもたれ掛かりながら電話をしている。
その電話は学校のものなのだから、私用電話は禁じられているが、ここは職員室ではなく、保健室という自分の特別な空間なので、人の目を気にしないで堂々たる態度で話をしていた。
「入手先・・・?」
 受話器の向こうの相手、大学時代の同輩の真田恭子は自分の渡した粘液の入手先が気になっているらしい、麻十城はどうしたものかと一瞬ためらったが、話すことはやめた。
「まあ、おいおい説明するよ。そのうち協力してもらわなくちゃいけなくなると思うしな・・・」
恭子のふてくされた返事を聞きながら、苦笑した。
 大学の同輩が、この地区担当の監察医になったと言うことは、卒業した時点でしってはいたが、まさか自分から連絡をとるとは思っていなかった。
恭子の顔は、好みだったが、性格が男勝りだったので、どうも、馬が合わなかった。まあ、会話もそれほど交わしたことは無かったので、自分にとって対して重要な存在の人物ではなかった。
 その女性とこうして自分からアポイントをとり再会するなどとは、あのときは考えもつかなかっただろう。
「また、連絡するよ。」
といって受話器を置いた。

 パソコンの前にすわると、スクリーンセーバーに変わっていた画面を直すためマウスを動かした。
「同一人物ね・・・・」
麻十城は明るくなる画面をみながらボソリと呟いた。
 画面は例のフロッピーの中身が映されている。手慣れた様子で画面をスクロールさせると、ある画面で動きを止めた。
 目の前の画面には受精後10週目と思われる胎児のエコーが添付してある。その写真を拡大した。と、麻十城はあるものに気づいた。
「イニシャル・・・?」
写真(エコー)の隅に小さく、日付とともにサインらしき文字が書かれてあった。
「H.A・・・ねぇ・・・・。」
麻十城は画面を見つめながら呟くと少しの間じっと動かなかった。

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2006年6月26日 (月曜日)

第9回(1)

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        9-1

 冷たい空気が白い霧となって開いた扉から洩れている。
その後い続いて、真田恭子が出てきた。恭子は薄い手袋を引っ張るようにはずすと、保留音のなった電話の受話器を取った。
電話の相手は大学時代の同級生の麻十城からだった。同じ大学ではあったが、学部が違うためほとんど会話することはなかった。たまたま同じ友人を通しての知り合い程度だったので、大学卒業後はきっと会うことは無いだろうと思っていた。
その人物から、連絡があったのは不可解な仕事に填っている時だった。

 恭子は卒業後、監察医という仕事に就いた。人の不可解な死の謎を少しでも解けたら・・・と思っていた。本心を言えば、ドラマとかに憧れていた面もあったようだが・・。
 就任して3ヶ月、お話の様な事件に巡り会うこともなく、事故遺体や自殺の遺体を解剖することに慣れていった。
だが、ある日担当の管轄から、回された遺体は『謎だらけ』のものであった。

 遺体の名前は安藤修二、遺体で発見されるまで行方不明になっていたらしい。当初安藤の死因は心筋梗塞によるものだと判断され遺族の元へと返されたのだった。
だが、恭子が書類の整理をしている時に不可解なモノを発見したのだった。
 それは腹部に小さな指が埋まっている影を映したレントゲンだった。見つけた当初はなにか内臓が絡んでしまったものだともおもったのだが、それはどう見ても人間の指にしか見えなかった。
だが、そんなものがそんな場所に入ることは、人為的な事をしない限りあり得ない。それなのに安藤の遺体には埋め込んだ痕の様なモノもなかった。恭子はその不可解な謎を解く為に上司を説得し、返された遺体を再度引き揚げる事にした。
 そうして、安藤の不可解な謎は恭子の仕事となった。だが、何度解剖を続けた所で真新しい発見をすることはなかった。

 遺体を目の前にして途方に暮れ始めていたとき、恭子の元に麻十城からの連絡が入った。
恭子は受話器を左手に持つと、近くにあった椅子に座った。
「もしもし、真田です。」
そう話しかけながら右手では白衣のポケットに入っている小さな瓶を取り出した。
「あ~、はい『指』ね・・・・。」
瓶を机の上に置くと人差し指で斜めにしてみた。
瓶の中にはホルマリンに浸かった指が浮いていた。
それはもちろん安藤の中から採取されたものであった。
「指のね~DNA調べたわよ。」
恭子はもともとおしとやかとは言えないタイプの人間だったので昔の同級生の、麻十城と話すときも上司と話すときもどこかつっけんどんな言い方に聞こえる。
「うん、そう。で、あんたから預かった方のも調べてみた。」
瓶をつかんでトンっと音を立てながら置き直すと、少し間をおいて声を潜めた。
「あんた、あれどこで手に入れたの?・・・うん、そう」
辺りを見渡して人がいないのを確認した。
「親、兄弟である確率99.9%・・・一体あんたは何を知って るの?」
 今直面している問題のヒントを麻十城が握っている。安藤の体の中から摘出されたモノを酷似したDNAをもつ人間がいる。
 恭子は身震いをした。それは恐怖などではなくどちらかといえば歓喜に近かった。

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2006年6月25日 (日曜日)

第8回(2)

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               8-2

 夕食を食べながら交わす会話は、たわいの無い内容だった。
母親の方も最近学校に行くようになった朝奈に安心していたのかもしれない。
本当の事はしらないで・・・。
 朝奈は本条と知り合ってから、学校に行くようになっていた。だが、朝いつもの様に制服をきて家を出るが直接学校に向かうことはなかった。
日中人混みの中をうろうろして、放課後の時間に なると下校している生徒に紛れて学校へ向かった。
「1人で居るのは怖いの・・・でも、クラスのみんなに会うのはもっと怖い・・・。」
前に朝奈の友人である、衣子にどうしているのか聞かれ質問した時そう答えていた。
「お母さん・・・」
 ご飯の半分へったお茶碗を机の上に置きながら、ぼそりと呟く。
箸は皿の上のおかずを小さく切っていた。がそれを口に運ぶ様子は無く小さく、小さくなっていく。
「朝奈、食べないならいたずらしないの!一体どうしたの?」
 様子のおかしい娘に気づき言葉は戒めの内容だったが、優しい表情だった。
朝奈の方は手を止めはしたが、俯いたままだった。
 なぜならこの今の雰囲気を壊しかねない質問をしようとしているからだ。

『代理母の存在』

 そのことを調べるにはまず、母親に聞かなくては進まない。しかし、それにはそうとうなリスクが考えられる。
朝奈は偽りでも、今の生活を壊すのが怖かった。
母親が前に見た時の様にノイローゼになってしまったらどうしよう・・・。などと、悪い事ばかり想像してしまう。
 考えれば考えるほど悪い想像ばかり浮かんでくる。机の上に置いた手をギュッと握ると、伏せていた顔を上げた。
「お母さん」
静かな空気が一瞬広がった。



「ごめんなさい。」
受話器を肩に挟むと開いた手をダラリと下ろすと、ジュータンに 落ちていた髪の毛に気付き拾い上げた。
「だって・・・・」
受話器の相手に文句をいわれたのか言い訳の様に言葉を吐いた。
 結局のところ、母親を問いただすことは出来なかった。覚悟決めたつもりだったが、目の前に座っている母親の心配そうな笑顔を砕くことが出来なかった。
なんでもないと笑ってごまかしたのであった。
「・・・親戚の人あたってみるから・・・・」
そう、相手に伝え何度かうなずいたあと、朝奈は静かに電話を置いた。
受話器に手を置いたまま動かずに一点を見ていた。だがその視線の先にはなにもなかった。
 そうして少し経った後、もう寝てしまった母を起こさない様に静かに部屋に戻った。



 本条は受話器を置いてすぐに鞄から手帳をだした。数枚めくると、書いてもらったばかりの麻十城の連絡先が書かれてある。
その電話番号を確認するかの様に指でたどるとダイアルを押した。

trrrrrr・・・・と、呼び出し音が聞こえている。
「親戚ねぇ・・・」
と独り言を呟いた。
 先程、少し涙声で電話をかけてきた朝奈は今日麻十城から聞いた『代理母』に思い当たる人物を朝奈の母親に尋ねて欲しいという申し出に答えられなかったという誤りの電話だった。
 彼女の気持ちも解る。だが、そんな躊躇しては何にも解決出来ないのではないかと言う少し苛立った口調で彼女に問いつめてしまった。
「もとは、彼女自身のことなんだし・・・」
呟くと同時に呼び出し音が途絶え、受話器の向こうから、声がした。


 朝奈は父親の葬式の回向帳を開いていた。
参列してくれた人に何か手がかりを持っている人がいるかもしれないと考えたのだ。
それには本来なら、かなりな参列者の名前が書かれるものだが、失踪していた事もあって、数十名の人数しか書かれていなかった。
 父親の昔の上司と、数年来の友人、母親の方の知り合いあとは 親戚くらいだった。
そうして、しばらくして帳面を閉じると、鞄に閉まった。
その後布団に潜った。ベットの上で横になりながら天井を見ていると何も無いはずの天井なのに何故か気になって眠れなかった。
その感覚は恐怖というものではなく、静寂の真ん中に落とされた様な不思議な感覚だった。朝奈はその感覚から逃れる為に、力一 杯目を閉じて強制的に眠りの世界は入っていった。

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